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ステージレビュー

懸命に生きる、かっこよくない姿がいい「風を結んで」

2011年6月20日

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写真:ミュージカル「風を結んで」より=写真提供:東宝演劇部拡大ミュージカル「風を結んで」より=写真提供:東宝演劇部

写真:ミュージカル「風を結んで」より=写真提供:東宝演劇部拡大ミュージカル「風を結んで」より=写真提供:東宝演劇部

 演出・振付の謝珠栄率いるTSミュージカルファンデーションと東宝が組んだ「風を結んで」がシアタークリエでの公演を終了し、26日より名古屋、大阪での公演を迎える。この作品は2005年にTSミュージカルファンデーションが発表したオリジナルミュージカル。今回の再演でキャストを一新し、新しい作品が誕生した。シンガーソングライターで、数々の舞台で活躍する中川晃教、元宝塚トップスターで退団後は舞台を中心に活躍する大和悠河、ミュージカル界で活躍する藤岡正明、小西遼生、大澄賢也らが出演している。(文・岩村美佳)

 太平の世が続いた江戸時代が、幕末の嵐をへて終わりを告げ、明治の時代へ。版籍奉還、廃藩置県、そして廃刀令の発布とめまぐるしく時代が移り、武士であることの誇りが奪われて行く。「武士の道とはいかに死ぬかということだ」という価値観が変わっていく時代に懸命に生きた若者達の物語。

 「生きて生きて生き抜こう」というこの作品のメッセージ。もし今が平和で、経済は豊か、個々の幸せを求め生きることに余裕のある世の中であったならば、観客の心にリアルに響くことはなかったのかもしれない。3月の震災、続く原発の問題、政治の不安定さ…、一挙に拭きあがった現実に、人々が「生きること」についてより真剣に考える今だからこそ、この強い思いに共感を覚えるだろう。

 道場一の剣豪・橘右近(大澄)に真剣で勝負を挑まれた片山平吾(中川)と、仲間の田島郡兵衛(藤岡)、加納弥助(小西)は、ひょんなことから洋行帰りの由紀子(大和)と捨吉(山崎銀之丞)に助けられる。由紀子は、本物の武士による「パフォーマンス」一座を結成したいのだと言いだして3人の度肝を抜く。「武士の魂である剣をパフォーマンスに使うなどあえりえない」と拒絶する思いを越え、生きていくことを決意し挑戦する。そして集まった武士達で一座を結成し、初舞台を迎える。成功を収めた一座だが、それぞれの抱える事情がそのまま進むことを許さなかった。時代の波のなかで、それぞれの生き方を見つけていく。

 平吾がとにかく熱く、「生きること」について訴える。泥臭くひたすらに前に向かおうとする姿を見て、それに巻き込まれるように進みながらそれぞれの道を模索していく人々。ある者は武士であることを捨てられなかった。またある者は違う方法で時代の動く瞬間を追おうとする。この作品の良さはただ新しいパフォーマンスを成功させようと頑張る姿を描くだけではなく、そこに集まる人々がそれぞれに抱える背景を見せていくところだ。武士がその存在価値を認められなくなった衝撃にどう向き合っていったのか、9人9色のドラマを描いている。そしてその時代に生きた対照的な2人の女性の生き方も見所だ。またこの物語の土台には、福島会津藩白虎隊の姿が描かれている。

 中川の絶対的な歌の力が、この作品の「生きる」というメッセージを一番に押し上げる一番の原動力になっている。真ん中で物語を引っ張っていく役割が、中川の歌の力を存分に生かす場所なのだろう。また、藤岡と小西がそれぞれの役の個性を出し、中川との3人組をバランス良く演じている。3人で「風を結んで約束しよう」と歌うハーモニーが美しく、前を向いた若者達の若葉のような瑞々しさを感じさせる。また、物語の最後にそれぞれの思いを歌う場面が秀逸。観客の心を動かす場面になっている。宝塚歌劇団の創始者、故・小林一三をイメージした役という由紀子を演じる大和は、場面ごとにその場の空気を一気に変えるような光をまとい、洋行帰りという前を行く女性を、快活に演じている。

 時代を動かした名だたる人ではない市井の人が、激動の時代の中でひたすらに生きようとする姿は、かっこよくないのがいい。そして、そういう1人1人の力が集まって原動力となり、結果世の中を動かしていく。それを今私たちが、身をもって感じる時なのだと思う。

◆ミュージカル「風を結んで」
《東京公演》2011年6月4日(土)〜19日(日) シアタークリエ
《名古屋公演》2011年6月26日(日) 中日劇場
《大阪公演》2011年6月28日(火)〜30日(木) イオン化粧品 シアターBRAVA!
詳しくは、公式サイトへ

【「風を結んで」出演、中川晃教インタビュー全文はこちら】

《筆者プロフィール》岩村美佳 フリーフォトグラファー、フリーライター。舞台関係、ファッションなどを中心に撮影してきた経験をいかし、ライターとしても活動している。「目に浮かぶ言葉」を伝えていきたい。


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