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ステージレビュー

宝塚花組「蘭蘭コンビ」お披露目、「ファントム」開幕

2011年6月27日

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写真:宝塚大劇場公演「ファントム」より=撮影・岸隆子拡大宝塚大劇場公演「ファントム」より=撮影・岸隆子

 宝塚花組公演「ファントム」が、宝塚大劇場で6月24日、初日を迎えました。「ファントム」は‘もう一つの「オペラ座の怪人」’とも呼ばれ、2004年に宙組で日本初上演、2006年に花組で再演され、大きな話題を呼びました。そして今回再び、蘭寿とむ(らんじゅ・とむ)さんのトップスターお披露目公演として、宝塚大劇場で蘇ります。(文・さかせがわ猫丸、写真・岸隆子)

 「華がある」というのは、まさしく蘭寿さんのためにある言葉かもしれません。ピカーッと音がしそうな笑顔は真夏の太陽みたいで、大劇場を一気に灼熱化。くっきり整った目鼻立ちに、喜怒哀楽豊かな芸風も相まって、真ん中で輝くにふさわしい説得力を感じさせます。今年で研16。2004年に花組から宙組へ異動し、着実にキャリアを積み重ね、近年特に雰囲気が研ぎ澄まされてきたところで、この春、古巣の花組に戻り、満を持してのトップ就任となりました。相手役の蘭乃はな(らんの・はな)さんと‘蘭蘭コンビ’で、新生花組を担います。

 そんな蘭寿さんのお披露目作品となった「ファントム」。原作の「オペラ座の怪人」は1909年にガストン・ルル―が発表した小説で、テレビや映画、また舞台で古くから世界中の人々に愛されてきました。おどろおどろしいイメージの強い怪人ファントムですが、このアーサー・コピット版「ファントム」では、仮面で顔を隠し地下に住まざるをえなくなった彼の生い立ちと心情に焦点を当て、宝塚らしい演出も加え、より人間らしく、よりロマンチックに描かれています。

 開演アナウンスの前に、作品のナンバーがメドレーで演奏されるオーバーチュアがあるのも本格的海外ミュージカルらしいところ。オーケストラが奏でるモーリー・イェストン氏が手がけた名曲の数々が、幕が上がる前から私たちを「ファントム」の世界へといざなってくれます。タクトを振るのは‘踊るミュージカル指揮者’として有名な塩田明弘さん。ダイナミックな指揮にもぜひ、注目してみてください。

 オープニングは月をバックに妖しく登場するファントム。実に幻想的な光景です。心の叫びを歌い、己の顔の一部がもたらせた数奇な運命と悲しみを表すかのようなダンスシーンが続き、作品への期待感が高まります。蘭寿さんはキズや仮面で顔を半分隠されていても、それが気にならないほど美しく華やかで、これでこそ‘宝塚版・オペラ座の怪人’だと冒頭から実感させてくれました。

 19世紀後半のパリ、クリスティーヌ・ダーエ(蘭乃)はオペラ座通りで楽譜を売っていた。その歌声に魅せられたフィリップ・ドゥ・シャンドン伯爵(愛音羽麗/あいね・はれい=役替わり=朝夏まなと/あさか・まなと)は、彼女にオペラ座でレッスンを受けるよう声をかける。

 一方、オペラ座では、支配人のジェラルド・キャリエール(壮一帆/そう・かずほ)が解任され、アラン・ショレ(華形ひかる/はながた・ひかる=役替わり=愛音)が、妻カルロッタ(桜一花/さくら・いちか)を連れ、新支配人就任の挨拶を行っていた。傲慢な2人は、キャリエールから「オペラ座の地下には怪人が住むので、決して下に降りてはいけない」など忠告されるが、取りあおうとはしない。 

 そんなオペラ座を訪れたクリスティーヌは、結局カルロッタの衣装係にさせられたが、オペラ座にいられるだけで幸せだった。働きながら夢を歌うクリスティーヌ。その天使のような歌声に魅かれ、仮面で顔を隠したファントム(蘭寿)が姿を現した。そして彼女に歌のレッスンをしてあげると申し出る――。

 蘭乃さんは声質が可愛らしくて、可憐なクリスティーヌが想像以上に似合っています。カルロッタは、自分の地位を脅かすクリスティーヌをいじめ倒す強烈なプリマドンナ。高い歌唱力と演技力が求められる役ですが、桜さんは独自のキャラクターで、新しいカルロッタを作り上げていました。

 そして、キャリエール役の壮さん。ダンディーで渋いオジサマ役を驚くほど自然に演じていて、役者として幅を広げられたなあと、登場しただけで感動するほどでした。

 この公演は役替わりが多いのもみどころで、フィリップとショレ以外に、団員のセルジョと若き日のキャリエールも、朝夏さんと華形さんがそれぞれ交代で演じています。愛音さん含め3人はとても大変そうですが、役者さんたちが演じる役の違いをたくさん味わえるのも面白いですね。

 今回はモーリー・イェストン氏がさらに新しい曲を2曲書き下ろされ、エリックが一瞬で姿を消すマジックのような演出など、ところどころ新しいアレンジも加わっています。

 すべてのナンバーに見ごたえがあって、クリスティーヌがコンテストで成功するシーンや、団員たちがファントムを恐れるシーン、幼いエリックが自らの運命を悟ったシーンなど、どのシーンも終わるたびに夢中で感嘆の拍手を送ってしまいました。特に、終盤で訪れるファントムとキャリエールの銀橋シーンは必見! 個人的には、宝塚の舞台で「一番泣かせられたシーン」です。ここはぜひハンカチを握りしめて、蘭寿さんと壮さんの‘魂のぶつかりあい’とも言えそうな感動の瞬間をご堪能ください。

 ファントムは逃れられぬ自らの姿に絶望し、地下で暮らすうちに、あらゆることに少しずつ歪んでいく…地下に潜む怪人と人々に恐れられながらも、そこには誰も知りえない彼の悲劇がありました。心は少年のまま成長し、母の面影を重ねたクリスティーヌへの愛は、狂気をはらみながらも哀れで、ひたすら純粋で…。蘭寿さんの豊かな表現力は、エリックの孤独の中に揺れ動く心情を、観る者の胸を突くように訴えてきます。

 ファントム、クリスティーヌ、キャリエールの複雑に絡み合う苦悩。これは演じるほどに役者の思いも重なり、ますます進化し、深くなっていくのだろうなと思いました。「ファントム」は日々成長する舞台の臨場感を、ひときわ感じられる作品なのかもしれません。

 内容は一見、重そうですが、決して暗い気持ちになるわけではなく、甘く切ない余韻を残すのが宝塚。芝居のあとにはショーが少しついていて、迫力ある群舞や華麗なデュエットダンスも堪能できます。大きな羽を背負って、ますます華やぐ蘭寿さんのトップ就任を艶やかに飾る舞台となりました。

◆「ファントム」
《宝塚大劇場公演》2011年6月24日(金)〜7月25日(月)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ
《東京宝塚劇場公演》2011年8月12日(金)〜9月11日(日)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ

 <筆者プロフィール>さかせがわ猫丸 大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。


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