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ステージレビュー

安蘭けい初のストレートプレイ、死を決意した強さ体現

2011年10月20日

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写真:「アントニーとクレオパトラ」より=撮影:清田征剛拡大「アントニーとクレオパトラ」より=撮影:清田征剛

写真:「アントニーとクレオパトラ」より=撮影:清田征剛拡大「アントニーとクレオパトラ」より=撮影:清田征剛

 彩の国シェイクスピア・シリーズ第24弾「アントニーとクレオパトラ」が、彩の国さいたま芸術劇場での上演を終え、21〜23日に福岡公演、28〜31日に大阪公演が行われる。引き続き11月24〜27日には韓国で上演される。シェイクスピア全戯曲37本の完全上演を目指す「彩の国シェイクスピア・シリーズ(SSS)」の24作目で、同劇場芸術監督の蜷川幸雄が演出。マーク・アントニー役はシェイクスピア作品を演じ続けている吉田鋼太郎、クレオパトラ役は元宝塚トップスターで女優の安蘭けいが演じている。(フリーライター・岩村美佳)

 シェイクスピア作品のなかでは、あまり有名ではない作品だが、歴史に名を残した実在の人物のストーリーである。誰もが耳にしたことがあるであろう人物が、舞台上に現れ、人間臭く生きている。「ああ、こうだったのかもしれない」と納得させるリアルさで、表現されている。大人の純愛と滅びゆく者の心情を見る事ができる。

 歌舞伎と同じようなオレンジ、緑、黒の縦縞の幕に、大きなシェイクスピアの顔が描かれている。その幕が開くと、真っ白な舞台の上に大きなギリシャ彫刻が並んでいる。奥から全キャストが1列に並んで歩いてきて礼。フィナーレのような幕開きだ。そして物語が始まる。エジプト、ローマ、アテネ、シチリアと、遠く離れた地を、それぞれを示す大きな像を入れ替えることによって表現。場面数が多い戯曲の転換を、テンポ良く進めていく。

 紀元前40年、ローマの三執政官のひとりマーク・アントニーは、エジプト女王クレオパトラと恋に落ち、アレクサンドリアで愛欲生活に浸っていた。かつての英雄の姿はどこへ行ったのか、家臣たちがあきれるほどの盲目ぶりだった。そこへ妻の死の報せがもたらされる。そしてローマでは三執政官に敵対するセクスタス・ポンペイ(横田栄司)が勢力を拡大していることも知る。アントニーは引き止めるクレオパトラを振り切りローマへ帰国を決意する。

 ローマでは、三執政官の残る2人、オクテヴィアス・シーザー(池内博之)とレピダス(坂口芳貞)が、アントニーを待ち構えていた。アントニーのエジプトでの遊興ぶりを不快に思うシーザー。不穏な空気が流れる2人の絆を結ぶため、アントニーはシーザーの姉オクテーヴィア(中川安奈)との政略結婚を受け入れる。それを聞いたクレオパトラは激しい嫉妬に狂う。その後、一度は和平条約を結んだポンペイに対し、シーザーが戦いをしかけ、これを知ったアントニーはシーザーとの戦いに挑んだ。そしてこの対戦の展開からアントニーとクレオパトラは、死へと向うことになる。

 吉田はさすがの存在感。アントニーの英雄たる姿も、ダメ男っぷりも見事だ。思わず「なぜこんなにリアルに感じられるのだろうか」と考えてしまった。台詞はもちろんだが、とくにその息遣いが、舞台の表現であるという嘘と役のリアルさを両立させているように感じた。

 得意の歌を封じられ、芝居に徹する安蘭は、クレオパトラの高貴さや気高さを佇まいから充分に醸し出し、愛情や嫉妬など激しい感情を全身から発している。アントニーが死んで自らの死を決意し実行するとき、もう存分に生き抜いたという迷いのない心に、クレオパトラの揺るぎない強さを見せつけられる。見事な引き際に拍手を送りたくなるような、ある種気持ちのいい幕引きにも感じる。

 キャストは達者な役者がそろった。池内は若き英雄の華やぎと雄々しさをまとい、こののち全世界を治めるのだと納得させられる。アントニーの部下イノバーバス役には橋本じゅん、クレオパトラの侍女シャーミアン役には熊谷真実。ともに蜷川作品は初めてだが、個性を生かしながら確かな演技力で芝居を盛り上げる。

 幕が下りて再びシェイクスピアの顔に対したとき、その天賦の才に思いを馳せた。彼が生きた400年も後の現代においても、国を超えて鮮やかに演じ続けられる戯曲。時を超えて才能が結集し、新たな作品が生まれ続けていく。

◆「アントニーとクレオパトラ」
《埼玉公演》終了
《福岡公演》2011年10月21日(金)〜10月23日(日) キャナルシティ劇場
《大阪公演》2011年10月28日(金)〜10月31日(月) イオン化粧品 シアターBRAVA!
《韓国公演》2011年11月24日(木)〜11月27日(日) LGアートセンター
詳しくは、公式ブログへ

《筆者プロフィール》岩村美佳 フリーフォトグラファー、フリーライター。舞台関係、ファッションなどを中心に撮影してきた経験をいかし、ライターとしても活動している。「目に浮かぶ言葉」を伝えていきたい。


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