現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 舞台
  4. ステージレビュー
  5. 記事

ステージレビュー

千年の時を超える壮大な物語「眠れぬ雪獅子」開幕

2011年10月27日

印刷印刷用画面を開く

Check

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真:「眠れぬ雪獅子」公演より=撮影:岩村美佳拡大「眠れぬ雪獅子」公演より=撮影:岩村美佳

写真:「眠れぬ雪獅子」公演より=撮影:岩村美佳拡大「眠れぬ雪獅子」公演より=撮影:岩村美佳

 TSミュージカルファンデーションの意欲作「眠れぬ雪獅子」が、21日、世田谷パブリックシアターにて開幕した。「タン・ビエットの唄」「AKURO」に続く謝珠栄のアジア三部作の最後を飾る一作。険しい山々と厳しい自然に囲まれた秘境チベットを舞台に、千年の時を超えて展開する壮大なストーリーだ。(フリージャーナリスト・中本千晶)

 幕が開くと、舞台に設置された布の1点が高く引き上げられて、美しいヒマラヤの山岳地帯が表現される。一部が八百屋(斜め)になった舞台も険しい自然を彷彿とさせる。「天・風・火・水・地」の五大を表すとされる、青・白・赤・緑・黄の色彩が、舞台装置やセットのなかで効果的に配されるのが目を惹き付ける。

 舞台では、千年の時を隔てた2つの物語がパラレルに進行していく。まずは9世紀の古代チベット、仏教を弾圧する王ラン・ダルマ(今井清隆)を暗殺すべく立ち上がった仏僧ラルン(小西遼生)。弟ペマ(山田ジルソン)は兄のやったことを正しく歴史に残すべく筆を取るが、権力者の弾圧に遭い、志半ばに命を落とす。言葉の無力さを嘆き、「生まれ変わったときには、ペンではなく剣をこの手に取るのだ」と心に誓いながら…。いっぽうラルンは、人を殺めてしまった罪の苦しみと、弟を死なせてしまった後悔のなかで、救いを求めながら生き続ける。

 千年の時を経て、兄弟は再び出会う。旅回りの芸人一座のリーダー、テンジン(東山義久)と、詩人を志していたドルジェ(伊礼彼方)として。しかも今度は、ドルジェのほうが、圧政で民を苦しめる領主ワンドゥの暗殺を企んでいる。過去は再び繰り返されてしまうのか? 輪廻転生を経た兄は弟に何を伝えようとするのか?

 東山義久演じる道化師テンジンがとにかくチャーミング。これまで「クールな役を当てられがちだった」という東山が陽性の一面を全開した。それは一見、悩み苦しみ続けたラルンの生まれ変わりとは思えないのだが、物語がすすむにつれて次第に納得できてくる。明るさと愛嬌のなかにふっと感じられる哀しみの影、そのバランスが絶妙だ。

 もちろん、得意のダンスの見せ場も満載で、とくに一幕では持ち前の切れ味を発揮するものから、コミカルなもの、女装(?)まで、バラエティに富んだダンスシーンを見せてくれる。東山率いる旅芸人一座には達者なダンサー陣が勢揃い。千年の時を超えて登場する「黒い帽子の踊り」をはじめとして、劇中劇として見せるダンスシーンは迫力だ。

 いっぽう、怨念の男ドルジェを演じる伊礼彼方も、これまた今までとはひと味違う役どころを見せる。逆にこちらは明るくパッショネイトな本来の持ち味が、ラストシーンでの希望を感じさせる。東山と伊礼の「今チーム」に対し、ラルン役として「千年前チーム」を担うのが小西遼生。深みのある芝居で、千年の時の対比をきっちり見せた。

 ラン・ダルマにワンドゥと2人の暴君を演じる今井清隆が、千年の時を超えて悪役に徹する。朗々とした歌声でもって、恐れを知らぬ権力者ぶりを示した。対照的な「善」の2役を演じるのが保坂知寿。ラルン、テンジン、ドルジェらに希望の光を与え、道を示すターラ菩薩、そして占い師ドルガの2役で、登場するたびにぱっと後光が射すような存在感。ターラ菩薩が登場する際には、保坂と同じ劇団四季のダンサーとして活躍した滝沢由佳が一心同体で付き添い、千手観音のごとく神秘的な動きを見せる。

 とにかく印象に残るフレーズが多い。「俺たちが一歩を踏み出せば、きっと俺たちの後を歩き出してくれる仲間たちが出て来る。そうすれば必ず未来への道ができる」「未来は起きるものではなく、自分で起こすもの」…心に残る言葉は、人それぞれだろう。その「言葉」の力、「言葉」の大切さもまた、本作は再認識させてくれる。

 謝珠栄は、チベットの人々の心からの笑顔を見たとき、この作品を想起したのだという。人々が助けを求める宗教でさえも、幸福への決定的な道しるべにはならぬことを大胆に指摘する本作。じゃあ本当の幸せとは? テンジンが追い求める「人々を心からの笑顔にさせるもの」はいったい何なのか? この舞台を観た人は、その「何か」が身近なところに必ずあることを確信できるだろう。そのヒントが、この作品にはたくさん散りばめられている。

◆「眠れぬ雪獅子」
《東京公演》2011年10月21日(金)〜10月30日(日) 世田谷パブリックシアター
《富山公演》2011年11月1日(火) 富山県民会館 大ホール
《兵庫公演》2011年11月5日(土)〜6日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
詳しくは、公式サイトへ

《筆者プロフィール》中本千晶 フリージャーナリスト。宝塚関係の著作に「宝塚読本」(文春文庫)、「なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか」(小学館新書)。今年10月に「なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか」(東京堂出版)を出版。Astandスターファイルでも「ヅカナビ」連載中。


検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介