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ステージレビュー

濃密でスリリングな会話劇「みんな我が子」

2011年12月7日

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写真:「みんな我が子」公演より拡大「みんな我が子」公演より

写真:「みんな我が子」公演より拡大「みんな我が子」公演より

 白壁のカントリー調の建物に、ウッドデッキがある広い庭。いかにも古きよきアメリカの家庭を思わせるセットだが、天を突くように伸びた白壁は存在感がありすぎるし、うねるように伸びた大木は奇妙だ。冒頭から、ありふれた日常にひそむ“歪み”に絡めとられる「みんな我が子」は、現代アメリカ演劇の代表作家アーサー・ミラー作。第二次世界大戦によって、次男の死と事業の成功という相反するものを手にした家族が抱える“膿”が、あるきっかけで表出していく様を、長塚京三、麻実れい、田島優成、朝海ひかる、柄本佑ら新旧実力派俳優共演で描き出す。(フリーライター・岩橋朝美)

 舞台は第二次世界大戦後のアメリカ。戦争特需で事業を成功させた父ジョー(長塚京三)、次男ラリーの戦死を受け入れられず苦悩する母ケイト(麻実れい)、そんな母に苛立ちを隠せない長男クリス(田島優成)の一家のもとに、かつての隣人でラリーの恋人だったアン(朝海ひかる)が訪ねてくる。実は、クリスとアンは戦後に愛し合うようになり、結婚を望んでいた。だが、ケイトにとって、ふたりの結婚はラリーの死を認めること。到底受け入れることなどできず…。

 問題を抱えながらもギリギリのバランスで保たれていた家族の関係が、アンの来訪によって不協和音を奏ではじめ、それぞれが抱える秘密や疑念が徐々にあぶりだされていく。そして招かれざる客、アンの兄ジョージ(柄本佑)の登場と、ラリーの生死をめぐるケイトとアンの衝突により、ついには衝撃の結末を迎えてしまう。

 冒頭からラストまで同じセットで繰り広げられる会話劇は、息をつくのもはばかられるほど濃密でスリリングだ。事実を直視できない人間の脆さを体現した麻実れいは、繊細さのみに徹することなく、一家を根底から支えてきた母の自負をもにじませ好演。また、戦争で一財産を築きながら、妻や息子たちの思いにアイデンティティーを揺るがされ、人間の業や悔恨、哀愁を見せつける長塚京三の演技巧者ぶりにもうならされた。

 また、全身からあふれ出るパッションで正義感が強くまっすぐなクリスに息を吹き込んだ田島優成、可憐なたたずまいに芯の強さを感じさせる朝海ひかる、登場するなり異質な空気を持ち込む柄本佑と、ニンに合った起用と、それに応えた役者の熱演が光り、極上のミステリーにして心のひだを感じさせる人間ドラマに仕上がった。

 何が真実か? と物語を追いながら見えてくるのは、時に過ちを犯し、時に事実から目を逸らし、自分を正当化してしまう人間の偽らざる姿と、どんなに悔やんでも過去はやり直せないという残酷な現実。そのうえで聞く、ケイトの最後の一言が深く胸に刺さった。

◆「みんな我が子」
《東京公演》2011年12月2日(金)〜12月18日(日) 新国立劇場 小劇場
《大阪公演》2011年12月20日(火)〜12月21日(水) サンケイホールブリーゼ
⇒詳しくは、公式サイトへ

《筆者プロフィール》岩橋朝美 フリーエディター、フリーライター。WEBおよび出版を中心に、企画、編集、取材、執筆を行う。エンタテインメント、女性、仕事など、幅広いテーマで活動。


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