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ステージレビュー

特攻隊員を演じて23年、今井雅之「NO MORE WAR」の叫び

2011年12月8日

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写真:「THE WINDS OF GOD」より拡大「THE WINDS OF GOD」より

写真:「THE WINDS OF GOD」に出演している今井雅之、陣内智則拡大「THE WINDS OF GOD」に出演している今井雅之、陣内智則

 俳優、今井雅之のライフワークともいえる「THE WINDS OF GOD」。国内で海外で映画で、なぜこの作品を23年間も演じ続けてきたのか。その理由が、公演終了後の舞台あいさつで今井が叫んだ言葉でわかった。「We hope for no more war!」。今井は、毎公演この言葉を発し続けてきたといい、自分自身の人生をかけて、全身全霊で平和の大切さを訴え続けてきたのだ。2010年の夏、「手をつないでかえろうよ」の公演の前に今井にインタビューした時に感じたマグマのような熱さは、今回の舞台で、よりまっすぐに響いてきた。(アサヒ・コム編集部 岩瀬春美)

 正直なところ、この作品の端々に出てくる「輪廻転生」についてはよく分からない。ただ舞台上で今井が、全速力で走ったり、体中から沸き起こる怒りを爆発させて体当たりでけんかをしたり、渾身の力で演じる姿そのものから「死ぬな! 生きろ!」というメッセージがストレートに伝わってくる。

 漫才コンビの「アニキ」を熱演する今井に対し、相方の「キンタ」を演じる陣内智則は、キレのいいボケと変化球のようなツッコミで笑わせ、その熱さをバランスよく緩和している。陣内はお笑いタレントの本領発揮といったところだが、それだけではない。口を開けてへらへらしながら、アニキの後をいつも追っていたキンタが、特攻に志願することを決めてからは、ガラリと変わった。口を真一文字に結び、一点を見つめてまっすぐ立つ姿から、強い意志と覚悟が伝わり、笑いだけで終わらせない陣内の真骨頂を見た気がした。

 アニキとキンタは、交通事故に遭ったことがきっかけで、66年前の太平洋戦争末期にタイムスリップしてしまう。前世の姿、神風特攻隊員として生きていくことになった2人。仲間達との交流によって、彼らの等身大の姿が浮き彫りになっていく。やがて2人も零戦に乗ることに。椅子と机だけを使った零戦の操縦シーンは、観る者の想像力がかき立てられる。閃光や爆音での演出に加えて、激しい揺れをけいれんのように体を震わせて表現するなど、役者たちの迫真の演技も見ものだ。

 23年間続けられているこの作品も進化している。2011年の上演からは吉本興業と組み、今回の作品でも、陣内のほか、長原成樹(山田分隊長・神父)、本郷壮二郎(寺川中尉)、倉田亜味(千穂・妊婦)と吉本所属の芸人、俳優が名を連ねた。

 昨年夏のインタビューで、今井は、9.11の時、アメリカの新聞が世界貿易センタービルに突っ込んだ飛行機のことを「KAMIKAZE ATTACK」と書いたことがきっかけで「ウインズ…」の映画を作ったと話した。そしてニューヨーク公演で「アメリカの大手の新聞に、『KAMIKAZE ATTACK』と書かれたけど、特攻隊はテロじゃない。でも、百歩譲って、アメリカの人々がカミカゼ攻撃はテロだとおっしゃるのなら、最大のテロはヒロシマ、ナガサキだ」と命がけで客席に訴えたエピソードを語っていた。

 インタビュー時は「怒り」で燃えたぎっていた印象の今井だったが、今回の舞台では怒りに加えて、暖かいものも伝わってきた。舞台あいさつで今井は、「今年は戦後66年、本当の意味で日本が初めて非常に大きな国難に遭った年ではないでしょうか。原発も含めて。日常、そして平和の意味を、ありがたさを感じた年だと思います」と客席に語りかけていた。今回の上演には、サブタイトルに「生きる勇気を伝えたい」とある。人によって受け取り方は様々だろう。精一杯生きようと前向きになれる人もあれば、生きることがしんどいと感じている人もいるかもしれない。実際の舞台を観て、私自身は、それでもどうか生き抜いてほしいという「祈り」だと受け取った。

 この舞台と直接関係はないが、私は朝日新聞社の「広島・長崎の記憶〜被爆者からのメッセージ」ウェブサイトで、ボランティアとして英語ページの翻訳に携わってきた。その交流会で、ある被爆者の女性が語っていた内容が忘れられない。「今でも被爆で苦しんでいる人達がたくさんいます。私の家族や親戚もそう。それをどうか忘れないでください」。ヒロシマ、ナガサキを過去の事として忘れ去ってはいけない。忘れないという点では、東日本大震災についても同じ。「今も続く現実」として1人1人が受け止めていくことが大切だと思う。

 今井が23年間も上演し続けてきた理由もそこにあるのかもしれない。続ける原動力は「戦争はこれ以上ごめんだ」という怒りだろうか。3.11後の今回、怒りを上回る「平和への祈り」をより強く感じた。

◆「THE WINDS OF GOD〜生きる勇気を伝えたい〜」
《兵庫公演》12月9日(金) 宝塚バウホール、10日(土)〜11日(日)新神戸オリエンタル劇場
《京都公演》12月12日(月) 京都会館第二ホール
東京、福岡、大分、広島、北海道、宮城、大阪公演は終了しています。
⇒詳しくは、公式サイトへ

(関連リンク:「広島・長崎の記憶〜被爆者からのメッセージ」‐朝日新聞社‐
(Link:Memories of Hiroshima and Nagasaki -The Asahi Shimbun-)

《筆者プロフィール》岩瀬(桝郷)春美 アサヒ・コム編集部のスタッフ。福井県小浜市出身。戦前にアメリカに渡り、戦時中を含めて人生の大半を米国ですごした曾祖父の日記を読んだことがきっかけで、日系人の歴史に興味をもつ。書くことで日本と英語圏の架け橋になりたい。


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