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ステージレビュー

カーペンターズの時代描く「ア・ソング・フォー・ユー」

2011年12月12日

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写真:ミュージカル「ア・ソング・フォー・ユー」より=撮影:石郷友仁拡大ミュージカル「ア・ソング・フォー・ユー」より=撮影:石郷友仁

写真:ミュージカル「ア・ソング・フォー・ユー」より=撮影:石郷友仁拡大ミュージカル「ア・ソング・フォー・ユー」より=撮影:石郷友仁

写真:「ア・ソング・フォー・ユー」より=撮影:石郷友仁拡大「ア・ソング・フォー・ユー」より=撮影:石郷友仁

 カーペンターズのメロディーに乗せて、日々の生活のなかで「ほんとうに大切なもの」を問いかけるミュージカル「ア・ソング・フォー・ユー」が6日、東京の新国立劇場にて開幕した。(フリージャーナリスト・中本千晶)

 物語の舞台はベトナム戦争がいよいよ集結しようとしている1974年、米軍横田基地のある東京・福生(ふっさ)。街には今日も、米軍の軍用機の轟音が響くが、人々はすでに「戦うこと」には飽きている。かつて学生運動のリーダーとして活躍した過去を持つ翔子(春野寿美礼)は、今はその過去を封印し、アメリカ兵の集うライブハウスでカーペンターズを歌う日々だ。翔子とともに歌うケイ(吉沢梨絵)とミチル(松本紀保)も、それぞれにつらい過去を持つ時代の落とし子だ。心の傷を癒すためにも、彼女たちにはカーペンターズを歌うことが必要なのだった。

 いっぽう、熱いロックシンガーの征司(川平慈英)は、「ラブ・アンド・ピース」のメッセージを届けようとしている。カーペンターズの甘いメロディーが大嫌いな征司と翔子は最初激しくぶつかり合うが、次第に征司は翔子に惹かれていく。そこに突然姿を現すのが、翔子の元恋人で、かつては翔子とともに学生運動に情熱を燃やした国枝(羽場裕一)だった。レコード会社の敏腕プロデューサーとなった彼には、もはや昔の面影はない。やがて、彼が翔子にもちかけるメジャーデビューの話が、翔子の身の回りの人々に波紋を広げていく…。

 翔子役の春野は、劇中のショーでもカーペンターズの名曲をつぎつぎと披露。その温かみのある深い声が、何とも耳に心地よい。凛としていて、ちょっぴりミステリアスな雰囲気をたたえる役柄もぴったりだ。対する、征司役の川平は、ともすればウェットにもなってしまいがちな展開のなかで、底抜けな明るさが際立って小気味良い。恋のライバル国枝を演じる羽場は、クールで現実的な生き様のなかに、過去を捨てた淋しさを滲ませる。

 ライブハウス「ビレッジ」のマスター、ハンク(尾藤イサオ)とママの泰子(杜けあき)の夫婦が何とも良い味わい。時にいさかいもするけれど、本当は心から信頼し合い、強い絆で結ばれている。夫婦でこの作品を観に行けば、この2人の場面で、ずっと忘れていた「胸キュン」な気持ちがよみがえるかもしれない。

 「幸せとは、自分の居場所があること」と、後半で歌われるが、ハンク&泰子ママの夫婦を中心に、登場人物の「居場所」ができていく過程が、本作品のストーリーの軸といってもよさそうだ。コックのジョーを演じる上條恒彦が、その声と芝居の渋い味わいでスパイスを効かせる。

 物語は1975年4月30日、ベトナム戦争終結の日に幕を閉じる。平和と豊かさを心置きなく享受できる時代の始まりだ。そしてその先の日本には、バブルの狂乱が待っているのか…。個人的には、自分が子どもだったはずの時代を、「自分はこんな時代に育ったのか」と改めて客観視できたのが興味深かった。ちなみにこの時期は、宝塚歌劇団で「ベルサイユのばら」が初演され、大ヒットとなった頃でもある。

 登場人物のファッションも当時を偲ばせ、その頃の流行したらしい言い回しやグッズなども出て来て、懐かしさを感じる人もいるかもしれない。観る側の世代によって、この作品に寄せる想いはさまざまだろう。カーペンターズのメロディーを耳で楽しみながら、それぞれの人生を振り返り、身近な人たちに感謝したくなる。そんなきっかけを創ってくれそうな、温かいミュージカルだ。

【春野寿美礼インタビューの全動画はこちら】

◆「ア・ソング・フォー・ユー」
《東京公演》12月6日(火)〜18日(日) 新国立劇場中ホール
《名古屋公演》12月21日(水) 中日劇場
《兵庫公演》2012年1月7日(土)〜8日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
《金沢公演》2012年1月11日(水) 金沢歌劇座
⇒詳しくは、ミュージカル「ア・ソング・フォー・ユー」公式サイトへ

《筆者プロフィール》中本千晶 フリージャーナリスト。宝塚関係の著作に「宝塚読本」(文春文庫)、「なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか」(小学館新書)。今年10月に「なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか」(東京堂出版)を出版。Astandスターファイルでも「ヅカナビ」連載中。


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