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ステージレビュー

最悪な人生の最高の瞬間、ミュージカル「GOLD」

2011年12月19日

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写真:「GOLD」より=写真提供:東宝演劇部拡大「GOLD」より=写真提供:東宝演劇部

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写真:「GOLD」より=写真提供:東宝演劇部拡大「GOLD」より=写真提供:東宝演劇部

 日本初演となるミュージカル「GOLD 〜カミーユとロダン〜」が東京のシアタークリエで上演されている。おもな登場人物は「考える人」で有名な彫刻家オーギュスト・ロダンと、その弟子の女性、カミーユ・クローデル。芸術家とその愛人の愛憎を描いた物語だろうと思って観劇したら、たしかにストーリーの大筋はその通りだが、舞台上に流れるテーマはもっと身近で、だれにでも心当たりがあるものだった。カミーユの死後、カミーユ役の新妻聖子が登場して最後に歌うナンバー「黄金(ゴールド) GOLD」。この稀有な名曲は、2002年冬季オリンピックの開会式で使われたが、芸術家に限らず、スポーツ選手に限らず、すべての人の中にある「GOLD」への賛歌として響いてきた。(アサヒ・コム編集部 橋本正人)

 舞台でユニークだったのは、光の使い方。舞台上に並ぶ彫刻の位置を次々と変えながら、左右からのライトで彫刻を照らし出し、彫刻自体が重要な登場人物のように浮かび上がっては闇に眠ってゆく。大きな舞台転換はないが、光を自在に操ることで、屋外も屋内も、さらには足元に伸びる長い陰で登場人物の心理状態も表現する。上演台本・演出の白井晃らがこの舞台に込めた思いが、生き物のように表情を変える彫刻群から迫ってくる。

 カミーユ役の新妻聖子とロダン役の石丸幹二の歌は、さすがだ。ただ、妙な感覚かもしれないが、私が見た日は、死後のロダンが少々淡々と描かれているように感じられた。魂としての登場であっても、カミーユの晩年に対する苦悩がもう少し表現されても良いのではないかと思ったが、舞台なので日によって感じ方は違うかもしれない。

 カミーユの最後は、あまりにも不幸だ。だが、ラストシーンでカミーユ役の新妻が歌い上げるナンバー「黄金(ゴールド)」を聞いていると、「人生は幸福になることだけが大事なのではない。どんなに不幸な晩年を送ろうとも、一瞬だけでも自分はゴールドに触れることができた。涙さえも輝く、ゴールドに私は触れたのだ」という思いが、身体の中に飛び込んできて、心の中に居座った。ロダンとカミーユが愛し合いながら、ぶつかりあいながら作品を作った時間、その中で生み出されたカミーユの彫刻「シャクンタラー」「分別盛り」。そうだ。人生は、たとえどんなに不幸なものであっても、意味のないものではないのだ。

 私の人生で一番輝いた瞬間は、いつだったろう。あの時だろうか、この時だろうか。そして、これからの人生、予想外のことが起こって不幸のどん底に落ちるかもしれないが、少なくとも輝いたと思える瞬間を持てたことは私にとってはこのうえない幸せだ。その時を与えてくれた、みんなに感謝しよう。そして若い人たちには、不幸を恐れずにチャレンジして欲しい。劇場をあとにしながら、そんな気持ちが沸き上がってきた。公演が東京だけなのが、残念でならない。

【「GOLD」稽古場フォトギャラリーはこちら】

◆「GOLD 〜カミーユとロダン〜」
《東京公演》2011年12月8日(木)〜12月28日(水) シアタークリエ
⇒詳しくは、ミュージカル「GOLD 〜カミーユとロダン〜」公式サイトへ


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