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ステージレビュー

なんでもない日常、恐るべし…「ビューティフル・サンデイ」

2012年3月13日

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写真:「ビューティフル・サンデイ」公演より拡大「ビューティフル・サンデイ」公演より

 ほのぼの、しみじみ系のアットホームな作品なんだろうと、たかをくくっていた。「美しき日曜」というタイトルからしても、3人がソファーに座って微笑むポスターを見ても、そんなイメージしかできなかったのだ。が、その予想は見事に裏切られた。幕開きはコミカルだが、途中からぐいぐいと引き込まれていってしまう。そして、ラストは客席のそこここから鼻をすする音が…(これは花粉のせいだけではなかろう)。舞台「ビューティフル・サンデイ」はそんな見応え十分なドラマだった。(フリージャーナリスト・中本千晶)

 デニーズ荻窪店の店長を務める秋彦(葛山信吾)が、ひょんなことから、同性愛者であり画家を目指して勉強中のヒロ(桐山照史)と一緒に暮らすようになって3年が経つ。ある朝目覚めたら、隣りには何とヒロではなく、見知らぬ女性が寝ていた! 彼女の名は、ちひろ(瀬奈じゅん)。彼女は、秋彦たちが住んでいる部屋の前の住人だったという、淋しいアラフォーだった。そんな突拍子もない日曜日の朝が、物語の幕開きだ。

 2時間ノンストップのお芝居。秋彦の部屋の中だけで物語は進行する。リビングの奥には台所、バスルームの扉などが見え、ベランダには洗濯機と物干し場。人様の日常生活というのをのぞき見る機会はめったにないからだろうか、不思議とわくわくしてしまう。台詞と台詞の途中に、洗濯機の脱水が終了した「ピーピーピー」なんて音が入るのも、ああ、これって「普通の生活」の中のドラマなんだと感じさせる。

 幕開きのちひろが強烈だ。秋彦の隣でいきなりスリップ姿で寝ているし、驚き呆れる秋彦を尻目に、「私とヤッちゃったんでしょ? いいじゃないセックスの1回や2回ぐらい」なーんてさばさばと言ってのける。おまけに、ホモのヒロとは意気投合、いきなり一緒にお風呂に入ってしまうし…宝塚時代からの瀬奈の舞台を観ている人は、ちょっとドギマギしてしまうかも。

 物語の前半はそんな感じでドタバタ喜劇風に進み、客席からは笑いが絶えない。ところがやがて、3人それぞれが「抱えているもの」が明らかになっていき、物語は一気に展開していく。

 一見ぶっ飛んでいるように見えて実は純粋なちひろ役を、瀬奈じゅんはチャーミングかつシリアスに演じてみせ、ストレートプレイでの新境地開拓といったところ。この役が女性の観客の共感を得られるかどうかが、この作品の鍵となりそうだ。関西ジャニーズJr.の桐山照史は、繊細で心優しく、でも実は誰よりも解決が難しい悩みを抱えているという難しい役どころに体当たりでチャレンジ、爽やかに見せた。そして、秋彦を演じる葛山信吾は、どこまでも温かく、揺るぎない。地に足のついた存在感で、揺れる役どころの2人をがっしりと受け止めていた。

 三人三様、それぞれ「重いもの」を抱えているのだが、ふと我に返ると誰しも、3人に負けず劣らず「何かしら」抱えているものはある。そして、思わずその「重み」を比べてしまうのだ。だが、はからずも秋彦が言うように、「悩みの重さを比べることには意味がないのだ」ということに気付く。

 いつしか、舞台上の3人のなりゆきに、自分の姿を重ねて観てしまう。素直になれない私、思いやりが空回りしてしまう私、誰よりも貧乏クジを引いてる気がする私、それでも健気に生きているではないか私だって!と、そこでつい涙腺が緩んでしまう。どうもこの作品、がんばってる「私」の頭をよしよしと撫でてくれるような、そんな効能もあるらしい。

 そう、じつはこの話、誰にでもある「日常」の物語なのだ。なんでもない日常、恐るべし…そんなことをふと考えさせられる作品だった。「ビューティフル・サンデイ」恐るべし。

【葛山信吾インタビュー全動画はこちら】

◆ビューティフル・サンデイ
《東京公演》終了
《大阪公演》終了
《名古屋公演》2012年3月14日(水) 青少年文化センター アートピアホール
《兵庫公演》2012年3月16日(金)〜18日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
⇒詳しくは「ビューティフル・サンデイ」オフィシャルサイトへ http://beautiful-sunday.jp/

《筆者プロフィール》中本千晶 フリージャーナリスト。宝塚関係の著作に「宝塚読本」(文春文庫)、「なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか」(小学館新書)。2011年10月に「なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか」(東京堂出版)を出版。Astandスターファイルでも「ヅカナビ」連載中。


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