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三陸の合唱部員を描いた「うたごころ」、広がる上映会

2012年8月23日

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ドキュメンタリー映画「うたごころ 2011 予告編」より

写真:ドキュメンタリー映画「うたごころ」より拡大ドキュメンタリー映画「うたごころ」より

写真:ドキュメンタリー映画「うたごころ」より拡大ドキュメンタリー映画「うたごころ」より

 宮城・三陸の女子高校生たちの3.11以降の姿を描くドキュメンタリー映画「うたごころ」。東日本大震災の津波で、自宅を流された南三陸町の生徒を主人公に、高校の合唱部の仲間たちや大阪の歌手たちが「合唱」を通して、人と人との絆を深めていく姿を追った作品で、上映会の輪が日本中に広がっている。2011年8月に公開した2011年版に続き、12年8月25日には2012年版が、大阪の「ヒューマンドキュメンタリー映画祭《阿倍野》2012」で初めて公開される。(フリーライター・岩瀬春美)

 監督は、在阪民放局に勤めながらドキュメンタリー作品を発表し続けている榛葉健(しば・たけし)。阪神・淡路大震災では15本の番組を制作。その中の一作、「with…若き女性美術作家の生涯」は、国内外の多くの賞を受賞した。「with…」は2001年に映画化、劇場上映を経て、10年以上経った今も自主上映の輪が広がっている。「うたごころ」は、「with…」の姉妹作と位置付けている。

 東日本大震災の発生から2カ月後の11年5月、榛葉は大阪の合唱チームの被災地を支援する活動に同行し、宮城県南三陸町に向かった。「社業としては、今は報道現場から離れていますが、震災報道やドキュメンタリー制作はライフワークでしたから、未曽有の事態を、大阪から坐して見ていることは出来ませんでした」と話す榛葉は、この1年間、プライベートで三陸沿岸部に通い、撮影し続けた。

 最初から主人公が決まっていたわけではない。榛葉は南三陸町の避難所で、合唱を聞きながら涙を流していた1人の女子高校生と出会った。少女の素直な言葉の中に、甚大な被害に遭ってもなお、懸命に生きようとする心を感じ取り、彼女の密着取材を始めた。それが映画「うたごころ」を作るきっかけだ。以来、榛葉は彼女の高校生活の節目に合わせて14回、被災地に足を運んだ。

 「主人公の苦難を見世物にして、安全地帯にいる人たちに消費してもらうことが、私の映画の目的ではありません。映画が、彼女やご家族を支え、更に震災だけでなく様々な苦しみを抱える多くの人たちの、明日を生きる“希望”になれたら、と願って作っています」

 11年8月に「うたごころ・2011年版」が初公開され、日本各地で上映会が広がってきた。映画は主人公の女子高校生の成長に合わせて、新しい場面が年を追って加えられていく「現在進行形ドキュメンタリー」「(主人公とともに)成長する映画」とされ、2011年版に続き、“その後”の1年間の取材映像を加えた2012年版が8月25日に特別先行上映される。以後、2011年版上映を全国・海外で展開し、2012年版は2013年春ごろ以降に展開する計画だ。

 「うたごころ」上映会では、映画にも登場するプロのシンガー・寺尾仁志が率いる巨大合唱グループ「human note」(ヒューマンノート)によるコンサートが映画上映と一緒に行われることがある。映画と登場人物による生の歌が一体化することで、被災地の出来事を「見る」から「体験する」に近づける取り組みで、8月25日の大阪での上映会でも、寺尾らが舞台に立つ。

 寺尾は、これまで阪神・淡路大震災で被害を受けた神戸や、10年のハイチ大地震の被災地の最前線、ケニアのスラム地区などに自ら足を運んで、地道なボランティア活動を続けてきた。11年5月、寺尾はメンバーと共に南三陸町に向かった。「最初は被災地で歌っていいのか、怖かった」という。でも覚悟を決めて、避難所で自分たちの歌を届けた。この時の様子を榛葉のカメラが捉え、「うたごころ」につながっていく。

 上映会とコンサートのコラボレーションの演出を担当する「human note」メンバーの田中潤子は、「視覚(映画)や聴覚(ライブ)で感じ、考え、『うたごころ』という1つの表現になるようにしています」と話していた。

 榛葉はこう語る。「1年前のあの日、沿岸部の幾つもの学校は津波にのまれ、多くの楽器も流されました。象徴的に捉えると、『音楽』が失われた場所で、それでも残った音は『人間の声』だったように思うのです。東日本大震災の被災地で、『合唱』をモチーフにしたドキュメンタリー映画を作ったのは、合唱は2人以上のチームになって初めてできる表現だからです。『うたごころ』は、そんな三陸の皆さんの思いを受け止め、これから日本全国、世界中に届けてまいります。そして、『human note』の皆さんと一緒に力を合わせて、歌の力、映画の力、人の力、そしてつながる力をこれからも大事に育んでいきたいと思っています」

 「うたごころ・2012年版」が初公開される「ヒューマンドキュメンタリー映画祭《阿倍野》2012」は、8月24日〜26日の開催。「生きる」、「被災地へ」、「子どもたちよ!」という日替わりのテーマで、話題の最新作や、日本の戦後ドキュメンタリー史に残る名作や問題作など10作品が多面的に上映される。

◆ヒューマンドキュメンタリー映画祭《阿倍野》2012 「うたごころ」上映
2012年8月25日(土)午前10時から 大阪府阿倍野区民センター 大ホール
(ヒューマンドキュメンタリー映画祭《阿倍野》は、8月24日(金)〜8月26日(日))
⇒詳しくは、ヒューマンドキュメンタリー映画祭《阿倍野》2012公式サイトへ http://hdff.jp/

(関連リンク:ドキュメンタリー映画「うたごころ」公式ホームページ) http://utagokoro.info/

(関連リンク:human note公式ホームページ)http://www.human-note.com/

《筆者プロフィール》岩瀬春美 福井県小浜市出身。アサヒ・コム編集部のスタッフとして舞台ページを担当し、2012年1月よりフリーランスのライターとして活動。週刊誌「アエラ」5月14日号で、震災から1年後の3月11日に宮城県南三陸町で榛葉監督をルポした記事を掲載。その後も「うたごころ」の全国上映の広がりを取材し続けている。


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