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福島・相馬の高校生ら慟哭の舞台「今 伝えたいこと(仮)」

2012年8月31日

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写真:「今 伝えたいこと(仮)」公演より=撮影・岩瀬春美拡大「今 伝えたいこと(仮)」公演より=撮影・岩瀬春美

 福島県相馬市の高校生が作る演劇「今 伝えたいこと(仮)」が8月19日、京都教育大学の東日本大震災復興支援事業「耳をすませば 〜震災後に京都で何ができるかを考える〜」のプログラムの一部として上演された。この舞台は、福島県立相馬高等学校の演劇部のメンバー6人を含めた同校の放送局が部活動として演じており、京都公演は、福島から京都教育大学に編入した学生が中心となり実現した。津波と原発事故で苦難を強いられている高校生たちの心境をありのままに描いた作品だ。(フリーライター・岩瀬春美)

 同校の放送局は、2011年6月、音声ドキュメンタリー「緊急時避難準備不要区域より」を制作。東京のイベントで披露され、その内容が好評で、次は高校生の声を伝える演劇を、と依頼された。放送局顧問の渡部(わたのべ)義弘教諭が希望者を募ったところ、演劇部の女子生徒6人が手を挙げ、「相馬高校放送局」の作品として制作。放送局のメンバーと演劇部が一緒に活動をしている。まずは互いの被災体験を話し合い、自分たちで脚本を書いて作り上げた。タイトルに(仮)とつけたのは、伝えたいことが刻々と変わっていくと考えたからだ。

 物語は、震災から1年後、福島県内の高校が舞台で、主人公は、望美、桜、麻希の3人の高校生。震災後に高校に入学して仲良くなった3人は、お互いの被災状況をよく知らなかった。ある日、3人の中で一番明るく振る舞っていた望美が、突然自ら命を絶ってしまう。残された2人は、望美が自殺した原因について思い悩み、その中でこれまで抱え込んできた自分たちの被災体験を打ち明け始める…。そして麻希は、自分たちの声を届けることができないいらだちと、インターネットなどで何かを伝えようとするとおこる誹謗中傷に怒りを爆発させ、桜と2人きりの教室で叫ぶ。「誰かお願いです! 私たちの話を聞いてください! 子供の訴えを無視しないでください! 今ある現状を忘れないでください! 望美のように死ぬほど苦しんでいる人がいるのを忘れないでください!」と。

 終演後、高校生たちに話を聞いた。物語に自殺を織り込んだことについて脚本担当の2年生は「酪農や農業、漁業をしている方が、震災後に自殺してしまうニュースがよく流れるんです。震災や津波、原発事故が原因で自殺した人がいるんだ、と思ったときに、もしそれが学生だったら…、と考えてこの劇に取り込みました」と話す。

 麻希役の2年生は、「周りの子の中には、見た目や言動では全然分からないのに、家が全部流されたり、親のどちらかが亡くなっていたり、友達が亡くなっていたりする子がたくさんいます。本当に辛い思いをした人は、思い出すのもいやで、口に出せない。その人たちのことを考えると、私たちがせっかく舞台に立つ機会を与えていただいた高校生なんだから、福島県の子供の不安全部を背負って舞台で伝えなきゃいけない、という思いでやっています」という。

 照明担当の2年生はこう打ち明けた。「怖いって言われるけど、福島で生きている人は大勢いる。もうどうしようもないって思いながらも、今あるこの状況で、本当に少しずつではあるけど、前を向いていこうと思って生活し、生きています。その中で報道されずに忘れられていったり、ネットとかで悪口を書かれたりすると、戻っちゃう。そういうことはしないでほしいです」

 部活動を指導する渡部教諭は「この公演が、リーディング公演などで広がっていけばいいなと思います。登場人物の麻希も望美も桜も、原発が立地するこの日本に暮らす全ての高校生の明日の姿かもしれませんので」と、「今 伝えたいこと(仮)」をさらに伝えてくれる人が出てくることへの期待を語る。公演を観たある大阪の教員は「福島の高校生たちの思いに応えていく責任があると感じさせられました。関西の高校生に、福島の高校生とつながる機会を提供しないといけないと思いました」と話した。

 この演劇から伝わってくるのは、福島の子供たちの真実の慟哭だ。そんな子供たちの思いを、部員たちは自らの身を削るような覚悟を持って表現している。この作品の起点となった音声ドキュメンタリーで、放送局員はこう語る。

 「私には今を生きることしかできない」「安全な場所なんてどこにもない」

 それは、福島に限ったことではないのではないか。この演劇とつながることで、同じ日本で今を生きる1人1人の心の中に見えてくるものがきっと、ある。

《筆者プロフィール》岩瀬春美 福井県小浜市出身。人生の大半を米国ですごした曾祖父の日記を読んだことがきっかけでライターを志す。シアトルの日本語情報誌インターン、テクニカルライター等を経て、アサヒ・コム編集部のスタッフとして舞台ページを担当。2012年1月よりフリーランスのライターとして活動。


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