ステージレビュー
2012年11月27日
俳優の石丸幹二が、「朗読活劇レチダ・カルダ『天と地と』〜上杉謙信の生涯〜」を11月3日、東京・池上本門寺で演じた。原作は海音寺潮五郎の「天と地と」。秋の夜に、2時間の舞台を野外で1人、語り演じるというハードな舞台。石丸の声、「スパニッシュコネクション」の音楽、野外の音とが融合して、ただ一夜限りの特別な世界を生み出した。(フリーライター・岩村美佳)
肌で感じる秋の夜のひんやりとした空気。五感を使って舞台を楽しむという、屋内の劇場では感じることができない特別な空間だ。お寺に向かう道すがら、夜の暗さや、ライトの照らす光、温度などを敏感に感じながら進む。お寺がもつ独特の静けさが心を落ち着かせ、フラットな気持ちで聞き入った。
すでに暗くなった池上本門寺の本殿がライトアップされている。奥に浮かんだシルエットは、川中島の戦いさなかの上杉謙信だった。そして一転、謙信が生まれたときに遡り、歩んだ人生を芝居を交えながら語り進めた。石丸は、物語に登場する老若男女を様々な声色を用い、たくみに演じ分ける。客席となっている静まり返った境内に、風が通り、石丸が語る声だけが聞こえてくる。ときに高揚感が、ときに静寂が広がっていく。
謙信が毘沙門堂に籠もる場面などでは、仁王像がライトアップされた。さらに石丸が本殿の方を向いて演じると、そこはまるで毘沙門堂。この場所で演じていることが生かされる演出だ。また、石丸が境内の客席の間を駆け、照明の足場を登ると、空気が留まることなく動く。緊張感が漂った。
戦国の世に自らの生き方を貫きつつ、毘沙門天への厚い信仰心を捧げる謙信が、池上本門寺に降り立ってきたような錯覚に引き込まれる瞬間があった。日頃の舞台では外国人役を演じることが多い石丸だが、伝説の武将「上杉謙信」を演じる姿は自然で、見事にはまっていた。役者が役に合うということと、演じる場所が役者にも観客にも大いに影響を与えるということを、強く感じる舞台だった。
◆「朗読活劇レチダ・カルダ『天と地と』〜上杉謙信の生涯〜」
《東京公演》2012年11月3日(土) 池上本門寺
※公演は終了しています。
《筆者プロフィール》岩村美佳 フリーフォトグラファー、フリーライター。舞台関係、ファッションなどを中心に撮影してきた経験をいかし、ライターとしても活動している。「目に浮かぶ言葉」を伝えていきたい。