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ヅカ★ナビ!

4文字略語は愛の証 宝塚星組『スカーレット・ピンパーネル』

2008年10月10日

  • 中本千晶

秋もいよいよ本番、日比谷の東京宝塚劇場では星組公演『スカーレット・ピンパーネル』が大盛況のうちに千穐楽を迎えた。

この作品がどのくらい面白かったかについては前々回語りまくったので割愛するが、それにしてもこの作品に限っては悪くいう人をみたことがないのは驚きだ。
タカラヅカの作品はファンの好き嫌いがはっきり分かれる場合がほとんどなのに。
たとえ8割以上の人に「どーしようもない駄作」といわれている作品でも熱烈に愛している人は必ずいるものだし、逆に『ベルばら』などは「あまり好きじゃない」というファンが意外と多かったりするのだ(ま、それでも観に行くんですけど)。

そんな中で万人から愛された『スカーレット・ピンパーネル』は稀有な存在でありますが、ひとつだけ、ずーっと違和感を感じていたことがあった。
それは、ファンの間でのこんな会話。

「ねえ、星組の『スカピン』、もう観た?」
「『スカピン』観たいっていう友だちがいるんだけど、チケット余ってないかなあ?」

「スカ・・・ピン??」(ミーマイのマリアおばちゃん風)
いうまでもなく『スカーレット・ピンパーネル』の略語なのだが、どうもマヌケな感じを受けるのは私だけ? 語感と作品の評価とのギャップがありすぎではないか?

だが、よくよく考えてみると、これまでも話題作、人気の作品といわれてきたものには必ずと言っていいほど略称が存在してきた。
一番定着しているのは『ベルばら』、いうまでもなく『ベルサイユのばら』のことで、ついさきほども補注も入れずに使ってしまったぐらい。
このほか『エリザベート』は『エリザ』、『風と共に去りぬ』は『風共(かぜとも)』、『ME AND MY GIRL』は『ミーマイ』といった具合である。

メジャーな作品でなくとも、ファンの間では略語が定着していたりするものだ。
来月の月組大劇場公演『夢の浮橋』の脚本・演出を担当する大野拓史氏の初期の作品に、世阿弥の2人の息子たちを主人公にした『更に狂はじ』という作品があるのだが、ある熱心な月組ファンの人に、この作品が非常に好きだという話をしたところ、

「更狂(さらぐる)、ほんとイイですよねー!!!」

と激しく共感されてしまった。そして私は、「そうか!『更に狂はじ』は『さらぐる』なんだ」と初めて知ったのである。

作品だけじゃない。「宝塚大劇場」は「大劇(だいげき)」、「東京宝塚劇場」は「東宝(とうほう)」、「宝塚バウホール」は「バウ」。
最近じゃCS放送の宝塚歌劇専門チャンネル「タカラヅカ・スカイ・ステージ」も「スカステ」などと呼ばれている。

これらに共通するのはいずれも、ファン同士の会話において多用される用語だということだ。
ファンにとって仲間との会話こそ命、それはヅカファンライフの楽しみであると同時に情報交換の場でもある。
この会話の効率を上げ、密度をできるだけ濃くしなければならない。長ったらしいコトバに4文字以上を発することは時間とエネルギーの浪費である。ゆえにヅカファンは略称を編み出したのだろう。

裏を返せば、略称が生まれる作品は、ファンの口の端にのぼる回数の多い話題作の証拠であり、良くも悪くもファンの関心の高い作品ということなのだ。
当然、再演が繰り返されればその分略称の必要度は高くなる。

そう考えると、語感はともあれ、これだけ短期間の間に「スカピン」の略称が広く定着した『スカーレット・ピンパーネル』は、それだけ愛された作品だったということなのだろう。
「スカピン」やっぱり恐るべしである。(中本千晶)

レベル:
★★☆(中級編)
分野:
言語学
対象:
今年の流行語大賞が何になるかがそろそろ気になり始めた人
ステップアップのための宿題:
略語を使いこなせるとファンワールドの深みに一歩入った気分になれます。おそらく、宙組公演『Paradise Prince(パラダイス プリンス)』は「パラプリ」、月組公演『夢の浮橋』は「夢浮(ゆめうき)」でしょう(中本予測)。

プロフィール

中本千晶
フリージャーナリスト。67年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。株式会社リクルートで海外ツアー販売サイトの立ち上げおよび運営に携わる。00年に独立。小学校4年生のときに宝塚歌劇を初観劇し「宝塚に入りたい」と思うも、1日で挫折。社会人になって仕事に行き詰まっていたとき、宝塚と再会し、ファンサイトの運営などを熱心に行なう。宝塚の行く末をあたたかく見守り、男性を積極的に観劇に誘う「ヅカナビゲーター」。著書に『東大脳の作り方と使い方』『ひとり仕事術』『宝塚読本』『熱烈文楽』ほか。

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