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ステージレビュー

2つの花組公演を追う(3)『銀ちゃんの恋』

2008年10月17日

  • 文:榊原和子/写真:岸隆子

写真宝塚花組『銀ちゃんの恋』より主演の大空祐飛

写真宝塚花組『銀ちゃんの恋』より=撮影・小林勝彦

『銀ちゃんの恋』

 つかこうへい作品と向き合うにはエネルギーがいる。そこには世間の規格からはずれた人間や、ルールなど通用しない無秩序な世界があるのに、どこかこちら側も思い当たって心が波立つのだ。

 銀幕に夢を映し出す人々の裏側を、愛と風刺を込めて露悪的に描いた「蒲田行進曲」は、映像・舞台で大ヒットした人気作品である。つか世界に傾倒する演出家の石田昌也が、宝塚向けにソフィスティケートして上演したのが96年初演の『銀ちゃんの恋』で、当時月組トップの久世星佳の代表作の1つとなっている。

 今回は大空祐飛が銀ちゃん役、子分のヤスには華形ひかる、恋人の小夏には野々すみ花という、イメージ的にもブレない3人が揃った。そして実際の仕上がりも想像以上の面白さとなった。

 物語の舞台は大手映画の撮影所。人気スターの銀ちゃんこと倉丘銀四郎・大空祐飛が、お腹が大きくなった恋人の小夏を、子分のヤスに押しつけようとすることから事件は始まる。言われるままに結婚した2人だが、小夏は次第にヤスを愛するようになっていく。一方、ヤスは銀ちゃんを慕うあまり、危険な「池田屋階段落ち」に挑むことを決心する。

 大空祐飛は、「銀ちゃん」を本能で理解しているように見える。カッコいいのにカッコわるく、むちゃくちゃなのに本人の中では筋が通っている、自分本位なのに周囲のことも気になって、野心と小心が彼のなかでせめぎ合う。そんなアンビバレンツな自分をもてあまして、愛してくれるヤスや小夏、子分たちに甘える銀ちゃん。“スターの孤独”と“人間としての可愛さ”を、大空は持てる魅力をフルに生かしてこちらに伝えてくれる。この役と出会って大空はまた1歩、役者としての手応えを掴んだのではないだろうか。

 ヤスの華形ひかるは、目に見えて成長した。ヨレヨレのジャージ姿にもじゃもじゃのヘアスタイル、ヒゲ。外見を徹底的に汚すことで、宝塚の男役としての枷(かせ)から解放されたのか、銀ちゃんへの忠誠と愛に生きる“ピュアな魂”として舞台にいた。後半、銀ちゃんの愛を疑い嘆くヤスの独白は、つか作品ならではの胸に突き刺さる名場面だが、華形は体当たりでヤスの真情を訴えてくる。小夏との距離の変化も自然で、男の大きさを内面から見せることに成功した。

 小夏の野々すみ花は緩急自在な演技巧者ぶり。最初の出から小夏になりきり、2人の男に揺れる複雑な女心をイヤミなく見せてくれる。女優としてのプライドを見せる前半から、女性の幸せを生きようとする後半への心の変化もなめらかで、観客の共感をよぶ小夏だ。『舞姫』の頃よりメイクも上達して舞台顔も綺麗になった。

 銀ちゃんのライバルで、同じ映画会社の人気スター橘には真野すがた。売れっ子の尊大で傲慢な部分を前に出しながら、実は男気もあるいいヤツで、美味しい役どころ。スターの色気も出て男役の幅が広がった。

 銀ちゃんと橘にはそれぞれ子分の大部屋俳優がいる。銀ちゃん側にはヤスのほかにトメ・日向燦、マコト・夕霧らい、ジミー・望海風斗がいて、彼らなりの愛情と気づかいで銀ちゃんとヤス、小夏を見守っている。焼肉屋やカラオケバーでの銀ちゃんとのやりとりにも、3人が個性を反映させてそれぞれ目が離せない。

 橘の子分には嶺乃一真、初輝よしや(これが退団公演になる)、煌雅あさひ、輝良まさとがいて、橘の顔色をいちいちうかがう小物加減がおかしい。嶺乃や初輝はカラオケバーの客で、煌雅と輝良は小夏のレビュー場面のダンサーとしても登場している。

 映画会社専務の眉月凰はハンサムな中年男だが、映画を愛する現場の人間の気骨をきちんと見せてくれる。その秘書の初姫さあやは芝居達者で、出てくるとインパクト満点。映画監督の悠真倫は、現場を愛する人間のシビアさと熱情を感じさせる。ちょっと気弱げな助監督に白鳥かすが(これが退団作品になる)。カメラマン役とイヤミで傲慢なスポンサー役を演じる紫峰七海。橘のマネージャーは紫陽レネで、池田屋の主人で大事なセリフをもらっている。

 銀ちゃんの新しい恋人の朋子は華耀きらりで、華があり、銀ちゃんを振り回すワガママお嬢様らしい。ヤスの母は専科の邦なつきで、しみじみと泣かせる。とんでもないメイクで登場する兄嫁玉美には月野姫花で、がんばっているがもっと弾けてもいい。

 小夏を脅すスケ番で笑わせる梅咲衣舞と聖花まい。梅咲は付き人など他にも何役か演じている。聖花も小夏を診察する女医としても登場。その看護婦に雫花ちな(この人も退団公演)。そのほかTVスタッフと殺陣師などの真瀬はるか、島子の瞳ゆゆ、焼肉屋の女店主の鞠花ゆめ、芸者の菜那くららと桜帆ゆかりなど、下級生に至るまで役があって、みんながイキイキと自分の役を楽しんでいる。

 それも主演の大空祐飛がいちばんこの作品を楽しんでいるからだろうし、つか作品というハードルをぎりぎりOKな演出でクリアし、きちんと宝塚作品に仕上げてみせた石田昌也の熱意と工夫の賜物だろう。つか作品と宝塚の出会いを、再び幸福感を持って観られたことを喜びたい。

    ※     ※     ※

 全国ツアー『外伝 ベルサイユのばら─アラン編─』と『銀ちゃんの恋』、この2つの公演は、内容レベル的には確かな差があったけれど、演じる出演者たちの情熱はまったく違いはなかった。舞台上から伝わる真摯なエネルギーは、どちらも痛いほどこちらの心に届いてきた。それだけに、出演者の努力に見合うよりよい脚本と演出をと切実に思う。花組全員が揃う正月公演の『太王四神記』で、少しでもたくさんの生徒に活躍の場があることを祈りたい。(榊原和子)

◆『銀ちゃんの恋』 82年に直木賞受賞、映画も大ヒットしたつかこうへい作「蒲田行進曲」をミュージカル化。96年、月組の久世星佳、風花舞、汐風幸らにより上演され、宝塚歌劇としては異色の作品ながら大好評を博した。スターの銀ちゃんから、妊娠した恋人の小夏を押し付けられた大部屋俳優のヤスだが、銀ちゃん主演の映画のため斬られて階下に落ちる役をかってでる。潤色・演出:石田昌也

《日本青年館大ホール公演》:10月20日(月)〜10月27日(月)(詳しくは宝塚歌劇団公演案内へ

写真写真拡大宝塚花組『銀ちゃんの恋』より

写真写真拡大宝塚花組『銀ちゃんの恋』より


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