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「ベルばら」熟成のとき 宝塚花組『外伝 ベルサイユのばら―アラン編―』

2008年10月24日

  • 中本千晶

写真花組「外伝 ベルサイユのばら―アラン編―」=撮影・岸隆子

 アラフォー世代を中心に今でも幅広い人気を誇る漫画「ベルサイユのばら」。
 フランス革命をめぐる壮大な物語だけに、「イイ男」が続々と出てくるのも魅力のひとつだ。フェルゼン、アンドレ、オスカル(本当は女だけど)の主役陣のほかにも、アラン、ベルナール、ジェローデルといった脇役まで。「私はアラン派」「私はジェローデル様が好きっ」というファンもきっと少なくないに違いない。

 そんなファン要チェックの演目が全国ツアー「外伝 ベルサイユのばら」シリーズだ。5〜6月の雪組「ジェローデル編」を皮切りに、9〜10月の花組「アラン編」、11〜12月の星組「ベルナール編」と続く。2009年2月には中日劇場にて宙組で「アンドレ編」が上演されることも決まっている。

 知り合いの自称「漫画ベルばらマニア」の某氏は宝塚ファンでもなんでもないのに、なぜかこの演目のことだけは察知していて、
「是非観たい! 全シリーズ観てもいい! 名古屋や大阪ぐらいなら行ってもいい!」
などと張り切っている。そんな彼の熱心さのほうにむしろ興味を惹かれた私はガイド役を買って出ることに。市川文化会館の花組「アラン編」を観に行ってきた。

 「ベルばら」本編でのアランは、イイ男なのに、こと女性関係についてはいまひとつはっきりしない。オスカルへの想いが上官に対する尊敬の念を超えていることは明らかなのだが、いっぽうでシスコンなところもあるし、まったく別に意中の女性がいるのかもしれないし、「本当はどうなんだろう?」と読者をやきもきさせる男性だ。
 そのあいまいな部分が今回の「外伝」ではたっぷりと描かれている。アラン(真飛聖)が生涯をかけて愛するのはオスカル(愛音羽麗)という設定。ただ同時に美しい妹のディアンヌ(桜乃彩音)との「兄妹愛」をやや逸脱した深いつながりも暗示させる。

 真飛聖のアランは男っぽい荒くれぶりと、貴族の血を感じさせる品の良さとのバランスが絶妙。何とも女心をくすぐるアランだった。
 密かに思慕するオスカルと言い争いをするうちに、はずみで抱きしめキスしてしまう一瞬はドキドキ度満点! 個人的に2008年度宝塚ラブシーン大賞を贈呈したい。
 アンドレ(壮一帆)との男の友情の場面にも泣かされた。オスカル、アンドレ亡き後は「隻腕将軍」と称えられながらも革命の行く末に失望し、最期はナポレオンと対決するという大胆な展開。
 公演案内には外伝原案として漫画の原作者である池田理代子さんの名前があるから、これが池田理代子さんが考えるアランということだろうか。
 「今宵一夜アンドレ・グランディエの妻に」「ついに落ちたか、フランス万歳」といった宝塚版「ベルばら」お約束の名場面、名せりふはすべてカットカットカット!   ……でもいいのだ、何故ならこれはアランの「ベルばら」なんだもの。

 「外伝」の魅力は、本編のファンが、主人公ではないが魅力的な登場人物に関してあれこれ想像を膨らませている部分を見せてくれることにある。その意味で今回の舞台は「これぞ外伝、まさに外伝」だった。
 また、外伝というものは本編の人気が幅広く定着してはじめて成り立つものだ。今回の「外伝 ベルサイユのばら」だって、漫画や宝塚版の「ベルばら」を熟知した人でないと楽しめないだろうという懸念はある。それでも興行として成立するということは、「ベルばら」もいよいよ成熟のときを迎えたということなのだろう。
 いっしょに行ったベルばらマニア氏もおおいに満足した模様で、つぎは「ベルナール編」も絶対に観に行こうと約束してしまった。

 いろいろな部分で、宝塚歌劇も少しずつ「伝統芸能」への道をたどっていると感じるときがある。今回の「外伝」シリーズもその典型的な現象のように思えてならない。その意味で、歴史的ターニングポイントの貴重な一瞬をみたのかもしれない、ふとそんな思いにかられる舞台だった。(中本千晶)

レベル:
★★☆(中級編)
分野:
一味違うオトナのベルばら
対象:
巨人・阪神よりオリックス・日ハム、青島俊作(織田裕二)より室井慎次(柳葉敏郎)に心惹かれてしまうタイプのあなた。
ステップアップのための宿題:
「外伝」は、これまで歌舞伎などにも多くの事例があります。たとえば鶴屋南北の「東海道四谷怪談」。これは「仮名手本忠臣蔵」の外伝というか裏バージョンのような作品です。タカラヅカもこれから人気作の「外伝」的な作品が増えるのか? 注目です。

写真写真拡大花組「外伝 ベルサイユのばら―アラン編―」=撮影・岸隆子

プロフィール

中本千晶
フリージャーナリスト。67年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。株式会社リクルートで海外ツアー販売サイトの立ち上げおよび運営に携わる。00年に独立。小学校4年生のときに宝塚歌劇を初観劇し「宝塚に入りたい」と思うも、1日で挫折。社会人になって仕事に行き詰まっていたとき、宝塚と再会し、ファンサイトの運営などを熱心に行なう。宝塚の行く末をあたたかく見守り、男性を積極的に観劇に誘う「ヅカナビゲーター」。著書に『東大脳の作り方と使い方』『ひとり仕事術』『宝塚読本』『熱烈文楽』ほか。

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