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ヅカ★ナビ!

クリスマス、いくつになっても乙女心 宝塚宙組「Paradise Prince」

2008年12月26日

  • 中本千晶

写真スチュアート(大和悠河、右)とキャサリン(陽月華)=宙組「パラダイス・プリンス」より、撮影・小林勝彦

 明日、東京宝塚劇場にて千穐楽を迎える宙組公演「Paradise Prince」は、今のロサンゼルスが舞台、アートやアニメーションの世界での成功を夢見る若者たちが繰り広げる物語だ。

 この作品で一貫して問いかけられるのは、「夢は追い続けていいものなのか? それとも、食べていくために諦めざるを得ないものなのか?」というテーマ。
 これは、どんな業種や職種の人でも、一度は悩む普遍的な問題だ。登場人物の誰かに自分を投影させながらこの作品を観た人も多かったんじゃないだろうか?
 私などは、同じフリーランスのキャサリン(陽月華)のことが人ごととは思えない。スチュアート(大和悠河)のような男性と出会えればよいのだが……現実はとても厳しい。

 さて、私が観劇した日はお芝居終了後にスペシャルなイベントが用意されていた。
 「クリスマス・パラダイスタイム」と称するそのイベントは、出演者が日替わりで登場し、ミニトークやプレゼント抽選会を繰り広げるというもの。

 その日のゲストは、アート業界を牛耳るお耽美プロデューサー、アンソニー(蘭寿とむ)と、その第1秘書で愛人1号との噂もあるヴィクトリア(美羽あさひ)、第2秘書で愛人2号との噂もあるシャルル(男性・悠未ひろ)の三角関係トリオ。
 3人はアンソニーのトレードマーク「赤い薔薇」を持って登場し、シャルルとヴィクトリアはアンソニーの「取り合い」をしながらトークを展開。最後に銀橋に出て「赤い薔薇」を客席に投げるという大サービス。
 たまたまこの日に観劇できた人たちは、とてもラッキーだったと思う。

 うかつにも私は、こんなイベントがあると知らなかったので、お芝居の幕が降りたとき、思わず立ち上がろうとしてしまった。
 その瞬間、後ろの席からスッと手が延びてきた。その手の主は無言のまま、私の右肩をぎゅうっと座席に押し付けるではないか!
 「見えないから、ちゃんと背中を座席に付けて座って」というメッセージであることはすぐにわかった。でも、悪気はなかったわけだし、何のことわりもなく肩を押されると、こっちだってギョッとする。ちょっと失礼ではないか?

 頭に来たので「どんな人なんだろう?」と幕間にチラチラ観察したら、意外にも柔和な感じの年配のご婦人である。そのご婦人が、伊東屋(東京の有名文房具店だ)で買ってきたらしい可愛らしいカードにせっせとメッセージを書いている。
 ははーん、彼女は誰かの熱烈ファンで、「出待ち」のときにお目当てのスターさんに渡すお手紙を書いているんだな。
 そんな姿が微笑ましく、さきほどの怒りも少しだけおさまったような気がした。

 そして、幕間が終わりショー「ダンシング フォー・ユー」が始まったとき、そのご婦人の無礼の理由がよくわかった。
 蘭寿とむさんの登場場面だけ、後部座席から耳をつんざくような拍手が聞こえてくるのである。
 そうか! 彼女は蘭寿さんの熱烈ファンだったのだ。それで、今日のイベント目当てで観劇に来ているのだろう。肝心のその場面で視界を遮られたら、そりゃ怒るわな。

 それ以降、私は蘭寿さんの場面になると、とりわけ姿勢を正し、背中を座席にぴったり付けて観るようにしたのだった。
 幕が降りて立ち上がって後ろをみると、すでに彼女の姿はない。おそらく「出待ち」で少しでもいい場所を取るために、ダッシュしていったのだろう。

 ファンはいくつになっても恋する乙女のままなのだ。
 「急ぎすぎて、階段でこけたりしなきゃいいけど……」ふと、そんなことを思ったりした。(中本千晶)

レベル:
★★★(上級編)
分野:
マナーレッスン
対象:
恋も観劇もやっぱりマナーが大事よね、と思う貴方。
ステップアップのための宿題:
観劇マナーが悪い人を注意すると、された方はもちろん、した方だって後味は悪いもの。せっかくの観劇の楽しみが損なわれてしまいます。お互い、そんな思いをしないためにも、「座席から身を乗り出さない」「携帯は切る」「お弁当のビニールの音などもしないようにする」「私語はもちろん慎む」などの観劇マナーは必ず守りましょう!

写真写真拡大写真左)アンソニー(蘭寿とむ、右から2人目)とヴィクトリア(美羽あさひ、右端)、シャルル(悠未ひろ、右から3人目)/写真右)中央がアンソニーの蘭寿とむ=宙組「パラダイス・プリンス」より、撮影・小林勝彦

プロフィール

中本千晶
フリージャーナリスト。67年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。株式会社リクルートで海外ツアー販売サイトの立ち上げおよび運営に携わる。00年に独立。小学校4年生のときに宝塚歌劇を初観劇し「宝塚に入りたい」と思うも、1日で挫折。社会人になって仕事に行き詰まっていたとき、宝塚と再会し、ファンサイトの運営などを熱心に行なう。宝塚の行く末をあたたかく見守り、男性を積極的に観劇に誘う「ヅカナビゲーター」。著書に『東大脳の作り方と使い方』『ひとり仕事術』『宝塚読本』『熱烈文楽』ほか。

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