現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 舞台
  4. ステージレビュー
  5. 記事

ステージレビュー

こんな時代こそ良い舞台を 08年の宝塚歌劇を振り返る

2008年12月25日

  • 文:佐藤さくら/撮影:岸隆子、岩村美佳

写真花組「愛と死のアラビア」主演の真飛聖=08年5月、宝塚大劇場、撮影・岸隆子

写真月組「グレート・ギャツビー」主演の瀬奈じゅん=08年8月、日生劇場、撮影・岩村美佳

写真雪組「ソロモンの指輪」主演の水夏希=08年8月、宝塚大劇場、撮影・岸隆子

写真星組「スカーレット・ピンパーネル」主演の安蘭けい=08年6月、宝塚大劇場、撮影・岩村美佳

写真宙組「雨に唄えば」主演の大和悠河=08年7月、梅田芸術劇場、撮影・岸隆子

 “不況の時代にはミュージカルが流行る”という言葉がある。麻生首相が「世界は100年に一度といわれるような不況に入りつつある」と会見で繰り返し、旅行や洋服、家電などの買い控えが当たり前となっている昨今、一方では5千円から1万円前後もする演劇やミュージカルのチケットが完売することも珍しくないのだから、冒頭の言葉はあながち嘘ではないのだろう。筆者は仕事上、月に20回ほど観劇する機会があるが、ことに良作を上演中の劇場は客席の熱気が格別だ。他の出費を多少控えてでもナマの舞台から血の通った充足感を得たいという人々の願望は、こんな時代だからこそ明確に浮き彫りになるのかもしれない。

 そんな中、演目によるバラつきはあるものの、今年も活況を呈した宝塚歌劇団。08年も残りわずかということで、印象に残るタイトルをざっと振り返ってみよう。あくまで極私的、また文字数の都合で全てに触れられないのはご勘弁を。

 まずは真飛聖の主演男役お披露目公演『愛と死のアラビア−高潔なアラブの戦士となったイギリス人−/Red Hot Sea』で新生となった花組。真飛と、07年末に花組に異動した大空祐飛、そして壮一帆とのバランスが新鮮で、今後の花組に期待を抱かせる船出だった。事実、半分のキャスト数で上演するバウ公演、『舞姫』『銀ちゃんの恋−つかこうへい作「蒲田行進曲」より−』の充実ぶりは特筆ものだった。ここでは両作品で健闘し、『銀ちゃん〜』ではタカラジェンヌとしては難役のヤスを演じた華形ひかるに拍手を送りたい。

 続いて月組。前半はトップ4年目という充実期を迎えた瀬奈じゅんと彩乃かなみの、あうんのコンビぶりを『ME AND MY GIRL』で楽しみ、彩乃が退団した後半は『グレート・ギャツビー』『夢の浮橋/Apasionado!!』で立て続けに瀬奈の“男役の魅力”を堪能するという変則的な1年。彩乃の後、トップ娘役を立てない異例の状態となっているが、トップコンビをもたないことで表現できるもの/できないものが観られるのは興味深い。このところ渋い役や辛抱役の続いている二番手・霧矢大夢の弾けた役もそろそろ見たいと思うのだが。

 雪組は、2時間という通常より長い上演作品『マリポーサの花』が印象に残る。前半の1時間以上がほぼ男たちの会話で占められ、ラストで一気に戦闘シーンになだれ込む構成は賛否両論だったが、長丁場を高い集中力で演じ切った水夏希と彩吹真央の力量に改めて唸らされた。一方『ソロモンの指輪』は、タカラヅカのショーでは珍しく形而上かつ抽象的なシーンの連続だったが、水以下、下級生の一人ひとりまでが自分の役割を咀嚼し、高い完成度を示した。いつもながら歌劇団生徒のキャパシティの広さには感服するばかりである。

 さて今年一番のヒット作といえば、満場一致で星組の『THE SCARLET PIMPERNEL』だろう。その成功はフランク・ワイルドホーンの耳に心地よく残る楽曲と小池修一郎の錬達の演出はもちろん、演出意図を十全に体現する安蘭けいの存在があってこそ。感情の陰影を伝える歌声と緩急自在な演技は、男役の一つの到達点といえる。その安蘭にしっかりと付いてゆくトップ娘役・遠野あすかと、最近表情にグッと艶が出てきた二番手・柚希礼音も頼もしい限りだ。1年を通してチケット難となった今年の星組。他組のファンもしっかり引き寄せた結果と感じた。

 宙組は『雨に唄えば』『Paradise Prince』と明るいミュージカルに主演男役・大和悠河の持ち味が生きた。シンプルだが思いきりハッピーな物語こそ、数多の演劇の中でもタカラヅカが担うフィールド。そこにてらいなく向かってゆく大和と陽月華のコンビを筆頭に、いずれの公演も蘭寿とむ以下全員で観客を楽しませようという姿勢が伝わってくる。それはショー『ダンシング・フォー・ユー』も同様で、スパニッシュに黒エンビなどいい意味で“お約束”の構成もあいまって、師走の東京宝塚劇場を大いに賑わせている。ロビーを歩きながら、各組の上演予定に想いを馳せつつ、来年も引き続きの盛況をと願った。


検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内