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ステージレビュー

ハリウッド映画の爽快さ! 宝塚花組『太王四神記』

2009年3月22日

  • ライター・佐藤さくら

写真王タムドクを演じる花組主演男役の真飛聖。トップである真飛自身の姿と自然に重なる=宝塚大劇場、撮影・岸隆子

 09年に入り、宝塚歌劇の挑戦が続いている。“ライトノベル”(雪組『忘れ雪』)、“ゲームソフト”(宙組『逆転裁判』)と続いた異ジャンルとのコラボレーションも、22日に千秋楽を迎えた花組『太王四神記』で真打ち登場(東京で観劇の場合)といった趣きだ。その手があったかといいたいような韓流ドラマとの初コラボだが、コアなファンをもつ作品の舞台化は、えてして難しいもの。原作ファンが期待するポイントを押さえつつ、同時に“一見さん”をも楽しませなければならないからだ。今回は手練の小池修一郎の演出とキャスト陣の熱演とで、文句なしのエンタメ大作に仕上がった。

 昨年10月に行われた制作発表では「計24時間のTVドラマを2時間の舞台にするに当たり、宝塚らしく“愛のドラマ”の要素を前面に出したい」と語っていた小池。高句麗の地で、運命に導かれるように真の王になるタムドク(真飛聖)と、彼の幼なじみながら長じて対立するようになるヨン・ホゲ(大空祐飛)という色の違う両者に、チュシンの王を手中にすべく企むプルキルに操られながらも、タムドクに心を寄せるキハ(桜乃彩音)を加えた3人の愛憎を軸に物語は進む。

 原作ドラマは歴史ファンタジーなので、SFXも見どころのひとつ。舞台化に際してそこをどう表現するのかも注目となったが、小池は盆(回り舞台)とLEDを多用し、スピード感を限界まで加えることで、あたかもハリウッド映画を立体で観ているような躍動感を出した。序章となる「神話の時代」は、盆を次々に回していくことで絵巻を広げるようにエピソードを処理し、「武道大会」では、舞台最奥から青・黄・緑などの鎧を身にまとった戦士たちが繰り出されて、スペクタキュラーな迫力を堪能させてくれる。

 タムドクは真飛いわく、「王という立場ながら、人の幸せを願ったり、誰も傷つけたくないと願っている人」(制作発表より)。そこが自身トップである真飛の姿と自然に重なった。黒い長髪も似合い、キハに向ける優しい表情と、戦闘シーンでの凛々しい横顔との緩急もいい。そしてタムドクが温かい太陽なら、ホゲは冷たく光る月といったところか。この手の役を演じさせれば現在髄一といえる大空が、キッチリと務めを果たして楽しい。いわゆる“美味しい役”だが、それを生かすも殺すも役者次第なのだから、やはり大空の手腕といえるだろう。

 その他、キハ役・桜乃の硬質な美しさが印象的。芝居、アクション共にタムドクやホゲと対等に伍して健闘した。また、今回の悪役プルキル役の壮一帆に貫禄と存在感。専科に振ってもいい役どころだが、あえて小池は壮を配した。結果、細かな手の表情など的確な芝居で強大な悪を演じきった。その意気込みに拍手を送りたい。

 さらに、柔らかい明るさを振りまいたスジニ役の愛音羽麗、冒頭の語り役を始め舞台を引き締めたヒョンゴ役の未涼亜希など、脇の登場人物も適材適所。大らかなフッケ将軍役の悠真倫や、機敏に動きまわるパソン役の桜一花、憂いのあるチョロ役の真野すがた。キハを影で見守るサリャン役の華形ひかるに、女戦士カクダン役の望月理世、息子ホゲを王にしようと画策するセーム役の花野じゅりあ、そして少々おバカだが憎めないチュムチ役の朝夏まなとなど、舞台の隅々まで個性的。どこを見ても楽しめるから、つい何度も観劇したくなる。

 宝塚大劇場と東京宝塚劇場では舞台の尺が異なるので、東京公演の初日に先立って行われたゲネプロでは、小池の珍しく厳しい声が飛んでいた。出演者も大劇場で慣れた感覚を、いったんオフにしなければならないから大変だったろう。誰かがひとつ間違えても、この舞台は成立しない。ハリウッド映画的な爽快感と同時に、宝塚でしか見られない団体プレーを見せてくれたという意味で、これはまぎれもなく宝塚の代表作になりうる1本といえよう。

写真写真拡大左)キハ役・桜乃彩音の硬質な美しさが印象的/右)ヨン・ホゲ役の大空祐飛。この手の役を演じさせれば現在、随一といえる=宝塚大劇場、撮影・岸隆子

写真写真拡大左)細かな手の表情など的確な芝居で強大な悪を演じきったプルキル役の壮一帆(右)/右)スジニを演じた愛音羽麗、チュムチ役の朝夏まなとなど、舞台の隅々まで個性的=宝塚大劇場、撮影・岸隆子


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