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ヅカ★ナビ!

太陽の貴公子、月の貴公子 宝塚月組『二人の貴公子』

2009年3月27日

  • 中本千晶

写真宝塚バウホール公演「2人の貴公子」より=(C)宝塚歌劇団

写真宝塚バウホール公演「2人の貴公子」より=(C)宝塚歌劇団

写真宝塚バウホール公演「2人の貴公子」より=(C)宝塚歌劇団

写真拡大宝塚バウホール公演「2人の貴公子」より=(C)宝塚歌劇団

写真拡大宝塚バウホール公演「2人の貴公子」より=(C)宝塚歌劇団

 タカラヅカの重要な萌えポイントのひとつに、「イケメンスターの2人並び」がある。
 トップと2番手男役が、親友としてライバルとして並び立つとき、あるいはショーで妖しく踊るとき、ファンは萌えるのだ。

 この萌えポイント、17世紀のイギリスにて、かのシェークスピアも承知していたのではあるまいか? そう思わせる作品を、タカラヅカ期待の若手が熱演中だ。
 その名も「二人の貴公子」。まるで、400年後のタカラヅカで復活上演されることが予定されていたかのような、シェークスピア晩年の1作である。

 ときは古代ギリシャ。雌鹿のように美しい要望と獅子の如き勇猛さで、その名をギリシャ中にとどろかせる2人の貴公子、パラモンとアーサイトの物語。
 この2人の貴公子を演じるのが、月組のホープ男役の龍真咲と明日海りおだ。2人が舞台に並び立った瞬間、ほおーっと吐息が漏れ、寿命も延びる心地がする。

 だが、外見はともかく中身のほうは、まったく正反対の2人。
 パラモン(龍真咲)は、常にまっすぐ前を向き、心のままに行動する情熱的な男性だ。
 対するアーサイト(明日海りお)にはパラモンの持つ、迷いなき輝きはない。その代わりに、深い思慮分別があった。
 パラモンが太陽ならアーサイトは月。そして、太陽と月がともに天に輝くことは決してできない……というのが、この物語のテーマである。それを象徴するかのように、舞台の背景には太陽と月が描かれている。

 従兄弟同士の幼なじみとして育ち、深い絆で結ばれる2人。だが、そんな2人の貴公子が、ともにアテネのエミーリア姫(羽桜しずく)に心惹かれてしまったことから悲劇ははじまる。

 一転して激しく争う2人に対して、アテネのテーセウス王(萬あきら)が下した審判は厳しいものだった。
「2人はこれから1年間、世界を旅して、おのおの100人の騎士を集めよ。そして、1年後の同じ日にここに戻り、決闘をするのだ。決闘の勝者には月桂樹の王冠とエミーリア姫が与えられる。敗者は、首を失う」

 どちらかを選べば、どちらかが命を失う……。悲嘆にくれるエミーリア姫に、不思議な神託が下る。「ふたりの貴公子の願いは、ともに叶えられるだろう」と。

 そして1年後。闘いを明日に控えた夜。
 パラモンはエミーリア姫に「私の望みは、ただ『愛』のみ。親友を得て、愛する女性のために命を賭けて闘えた。もう思い残すことはない」と告げる。エミーリア姫もまた「私を最も望んでくださる方に、私が与えられますように」と祈る。
 少ない言葉のなかに、万感の想いを込め合う2人、そして、この様子を垣間見てしまうアーサイトはある決心をする。

 テーセウス王の従兄弟にして忠臣であるペイリトオス(磯野千尋)は、
「パラモンに生きて欲しいと願うのならば、闘わずに、いま、この場を去るという道もある。卑怯者となることもまた、勇気ある選択なのだ」
 と、アーサイトにすすめる。
 テーセウス王とペイリトオスもまた、「太陽と月」であった。そして、同じ「月」の宿命を持つアーサイトに生きて欲しいと強く願っていたのだ。だが、もはや彼の決心を覆すことはできない。

 激闘の末、勝利を得たのはアーサイトだった。
 審判に従い、処刑場に向かうパラモン。だが、まさに首を打たれようとしたその瞬間、「処刑は中止だ!」との知らせが届く。
 勝利の直後、アーサイトは馬に乗って駆け去った。ところが、街中で偶然「パラモン……」の呼び声を耳にしたアーサイトは思わず馬を止めようとし、落馬してしまったのだった。

 アーサイトは「俺の代わりにエミーリア姫をとれ」と言い残して息絶える。
「この男の役は演じ終えられた」冷徹に言い放つテーセウス王。
 親友を失い、気も狂わんばかりに絶叫するパラモンに、エミーリア姫は、
「ともに、罪を背負いながら生きましょう」
 と、手を差し伸べる。 「パラモンにはエミーリア姫を、アーサイトには勝利を」それが、「2人の貴公子の願いはともに叶えられる」の意味だったのだ。
 強くありたいと願い続けたアーサイトは名誉とともに死んだ。パラモンは望みどおり愛を得たが、同時に罪を背負いながら生き続けねばならない。
「人は、手に入るものを笑い、手に入らぬものを哀しむ。現状のありように、感謝しよう」
 テーセウス王の言葉が、あまりにも重く深い。

 あらら・・・。
 最初は、月組のホープ2人の見目麗しい貴公子ぶりに、命も延びる心地だったはずが、最後は2人の哀しすぎる運命に涙し、人生の苦さをかみ締めてしまった。

 これも偉大なるシェークスピア様の差し金か??

レベル:
★★☆(中級編)
分野:
本気でシェークスピア
対象:
英単語も元素周期表もシェイクスピアも、“萌え”れば何でも覚えられる!
ステップアップのための宿題:
じつはこの物語には、悲劇の合間に観客を和ませてくれるサイドストーリーがあります。牢番の娘(蘭乃はな)に必死で求愛する男(光月るう)、人の良い騎士様(紫門ゆりや)そして、陽気な村人たち。芝居を盛り上げる月組若手メンバーの活躍も見逃せません。

プロフィール

中本千晶
フリージャーナリスト。67年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。株式会社リクルートで海外ツアー販売サイトの立ち上げおよび運営に携わる。00年に独立。小学校4年生のときに宝塚歌劇を初観劇し「宝塚に入りたい」と思うも、1日で挫折。社会人になって仕事に行き詰まっていたとき、宝塚と再会し、ファンサイトの運営などを熱心に行なう。宝塚の行く末をあたたかく見守り、男性を積極的に観劇に誘う「ヅカナビゲーター」。
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