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〈回顧2007:5〉演劇 日常の枠超えた作品に輝き ベテラン勢、鮮烈に壮大に

2007年12月28日

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 野田秀樹が上演中の自作「キル」のパンフレットに、こう書く。〈「等身大」の物語が大嫌いだ〉。〈「紅葉の葉脈の小さな迷路に迷い込んだり」「朝の光をむしゃむしゃ食べる」ようなことが、作家の書くべきこと〉であり、職場や学校、家庭でのあれこれを描く「等身大」の演劇は〈敵〉だ、と。

 その「等身大」の演劇は近年、数では主流になっている。楽しく、心動く作品も多い。だが、こぢんまりまとまった舞台にばかり触れていると、これだけでいいのか、という思いがわく。だからだろうか。日常のスケールを超えた作品が特に輝いて見えた一年だった。

 ●正気に潜む暴力を描く

 野田は「THE BEE」という衝撃の作品を放った。脱獄囚に妻子を人質にされた会社員が、犯人の家に乗り込み、その妻子を虐待する。エスカレートする暴力の応酬は、報復の連鎖という世界の病理を映し、人間を容赦なくえぐった。暴力性は狂気ではなく正気の中に潜在し、恐怖は人間の尊厳を無残に崩壊させる。出演者4人、上演時間わずか70分余の舞台が、なんと大きかったことか。

 画家ゴッホ、スーラらの無名時代を描く「コンフィダント・絆(きずな)」は、三谷幸喜の代表作の一つとなるであろう傑作だった。軽快な喜劇の中で三谷が書くのは、深く鋭い芸術家の肖像だ。不平等に与えられた「才能」をめぐる葛藤(かっとう)は、芸術全般、さらには人間の運命を考えさせる。

 ベテラン勢の活躍も「破格」だった。

 蜷川幸雄は、圧倒的な迫力で新作だけでも8本を演出。松たか子主演のアヌイ「ひばり」、小栗旬主演のカミュ「カリギュラ」では、なじみの薄いフランス戯曲に若い観客を巻き込み、芸術監督を務める彩の国さいたま芸術劇場で作った高齢者劇団「さいたまゴールド・シアター」は岩松了の書き下ろし「船上のピクニック」で初の本公演。老いゆく身体の中で燃える生命と精神の激しさを鮮烈に見せた。

 劇作では、井上ひさしが、戦後の日本人を問う「私はだれでしょう」、チェーホフの生涯をボードビルに仕立てた異色の評伝劇「ロマンス」と、力みなぎる新作2本を発表した。

 ●ゴドーの前に広がる空虚

 別役実は、ベケットへの返歌ともいえる「やってきたゴドー」を書いた。待ちわびたゴドーが現れても、広がるのは空虚さばかり。現代の空気を鮮やかに切り取った。新旧作の上演も相次ぎ、70歳を迎えた今年は「別役イヤー」ともいわれた。

 維新派は「ノスタルジア」で20世紀の人類の歴史を壮大に舞台化した。

 演出家、木村光一が率いる演劇制作体「地人会」が、26年の活動に終止符を打ったのは、残念な出来事だった。プロデュース集団の先がけとして、芸術と経済の両立を目指し、多くの秀作を残した。

 10周年を迎えた新国立劇場では、栗山民也が、英国のシャン・カーンに依頼した「CLEANSKINS/きれいな肌」など意欲作の演出で芸術監督の仕事を締めくった。バトンを渡された鵜山仁は「大きな物語の再生」を掲げ、ギリシャ悲劇を変奏した3部作でスタートした。ここにも、日常サイズを超えた演劇の力を探る意識が見える。だが、上演成果には課題が多い。

 東京・世田谷パブリックシアターも10周年。芸術監督・野村萬斎の演出・主演「国盗人」、カフカの小説を松本修が舞台化した「審判」「失踪者(しっそうしゃ)」など、時間をかけた取り組みが光る。

 ●若い劇作家は文学へも

 若い劇作家の文学への進出に拍車がかかったのも特徴だ。岡田利規、本谷有希子、前田司郎、三浦大輔、長塚圭史らの名前が文芸誌に並び、賞候補にもなる。蓬莱竜太、青木豪らの劇団外への戯曲提供も目立った。

 大劇場では、次から次へという勢いで、新旧の英米ミュージカルの翻訳上演が続いた。大型作品では劇団四季がブロードウェー発「ウィキッド」のロングラン公演をスタートさせた。東宝は東京・日比谷に新劇場「シアタークリエ」を開場。ほかにも首都圏では公立、民間の劇場のオープンが相次いだ。

 若手作家に当たる光、ミュージカルブーム、劇場ラッシュ。明るい話題には違いない。しかし、ずしりとした手応えを残す作品は、実績豊かな作り手によるものがほとんど。新しい動きの芽は見えにくかった。

 7月に死去した劇作家・演出家、太田省吾を思う。太田の舞台では、俳優は極端に遅く歩くことで日常をはるかに超えた表現を見せた。ごく普通の動作の速さを変えるだけで人は「等身大」から解き放たれ、舞台は無限の広さを持つ。演劇の豊かさを静かに示したその劇世界がいま、改めて輝いて見える。

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