「剣術師と小粋さの両立が難しい」と平
東京・浜町の明治座で上演中の舞台「剣客商売」で、病気休演した藤田まことの代わりに平幹二朗が主演している。平はシェークスピア作品などで、堂々とした身体を揺さぶる重厚な俳優との印象が強い。それだけに意外性もあるが、「今回は狂気は封印します。俳優の幅を広げる好機」と意気込む。
舞台上の平は、雄々しき悲劇的な塊だ。俳優座で演技の基礎を学び、浅利慶太の古典主義的演劇で、せりふを端正に研磨。蜷川幸雄のバロック的演劇に出合って、内面のマグマを噴出させた。かくて狂気の役者と相成った。
「浅利さんからは、はき出したいものを真珠が粒立つようなせりふに乗せる術を学んだ。蜷川さんは何でもあり。楽に狂えるようになった」
それが池波正太郎原作の「剣客商売」、しかも藤田の十八番「秋山小兵衛」を演じる。「テレビ版で田沼意次役を演じていますし、病気休演のつらさは僕自身体験しています。激しく狂気じみた役が多かったので、穏やかな老人も演じておきたかった」
辻切り連続事件の嫌疑が、小兵衛の息子大治郎にかかる。小兵衛は疑いを晴らすため奔走するが、政道にからむ陰謀の影につきあたる。
「父が抱く息子への愛情が、一番のテーマです。生活を楽しむ感覚も求められる」。20年ほど前、劇団新派公演に客演した経験が、役作りをする際の引き出しを増やしたという。
「芝居が強く鋭角的になりすぎるので、渋み、滋味、飄逸(ひょう・いつ)さに置き換えようと努めている。商業演劇の塩加減をほどよくまぶし、どこかに笑みをたたえている自分へと調教しないと」と言う。
ふだんは「いたってのんびりです」。が、ひとたび舞台に立つと、がらりと変わる。人知れぬ、実から虚への跳躍だ。「実と虚の自分は違う。安心して虚の自分を出せるのが舞台です。でも、今回は『実の虚』とでもいえる自分を出さないといけませんね」
24日まで。出演はほかに小林綾子、山口馬木也ら。第2部では当初、藤田との共演を予定していた小柳ルミ子が単独でステージを披露する。1万2千、5千円。(米原範彦)