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「幕引き自分で」 吉行和子、最後の舞台

2008年6月19日

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写真舞台引退について心境を語る吉行和子=堀英治撮影

 女優の吉行和子が、19日から上演の「アプサンス〜ある不在〜」を最後に、舞台から引退することを明らかにした。いま72歳。「出来るからやってるというより、幕は自分で引きたい」。半世紀を超える舞台生活に区切りをつける理由を静かに語った。(井上秀樹)

■「客席と一緒、感じられる間に」

 引退は、数年前から考えていた。13年間上演した一人芝居「ミツコ―世紀末の伯爵夫人」が引き金だった。「一人でやってるとよく分かるんですが、舞台は客席と一緒に作っていくものなんです。それを感じられる間にやめれば、舞台女優だったんだな、と実感できると思って」

 演じたい役を探し、「糸に一本一本色を染め、縫っていくように」舞台を手作りしてきた。その取り組み方が、大がかりでエンターテインメント色が強い、現在の演劇界の傾向と釣り合わなくなってきた面もある。「客としては面白いけど、自分でやりたいとは思えないの」

 初めて見た舞台、三好十郎作の「冒した者」に涙し、高校を出て民芸に入団。修業のつもりで女優になったが、期待に応えようと責任感を背負うばかりで、演技を楽しむ余裕はなかった。

 退団後、小田島雄志演出の「蜜の味」で若い娘を演じて評価された。引っ越したばかりの新居について、つぶやいた「気に入らないな」というセリフが、自分の人生にもたくさんあった心境と、ぴたり重なった。「18歳らしい人生を送れていない少女の気持ちが、30歳を過ぎて分かった。女優って仕事が楽しいと思えるようになりました」

 「アプサンス」はロレー・ベロン作の翻訳劇。吉行は認知症の老女を演じる。病院で介護する男も、見舞いに来る近親者も、彼女のためではなく自分のためにやっている。老女の周りには大勢の人がいるのに、実はみんな独りで生きている――。花道を飾る舞台にしてはシビアな物語だ。

 「幸せな結婚生活を始めても、孤独を思う瞬間はある。孤独にどう対処するか、が人間だと思う」

 吉行自身も、一時の結婚生活を除いて一人で生きてきた。「日本人も高齢者が増えています。人に甘えず、一人で暮らす決心をつけないと」というメッセージもこめられている。

 映画やテレビドラマは今後も出演する予定。舞台から離れることで「観客として、好きな映画がもっと見られるようになるかな」。

 演出は大間知靖子。共演は岡田浩暉、山本郁子ほか。29日まで、東京・六本木の俳優座劇場。6300円。7月2日に東京・亀戸のカメリアホール、4日に群馬・太田の新田文化会館でも公演。ジェイ・クリップ(03・3352・1616)。

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