最終選考で踊る山賀ざくろ(左)と泉太郎組=郭允撮影
いったいこれはダンスなの? 思わずそう問いたくなるような“ダンサー”が輩出し、人気を集めている。表現は様々だが、あえて共通点をあげれば、「だめな体」「コントロールできない動き」も認めちゃうダンス。舞踊の可能性を広げる新潮流だ。
シャツをてろーんとだらしなく着た、なんともさえない男が、カメラを前に体をゆらゆら揺らす。その男の姿態を映し出すモニターに、別の男性がフェルトペンで落書きしていく。
山賀ざくろと泉太郎のパフォーマンス「天使の誘惑」だ。08年6月にあった、トヨタコレオグラフィーアワード最終審査会での様子。トヨタアワードは、日本のコンテンポラリーダンスから才能を発掘する、国内最大の機会。そして、このトヨタアワードで受賞できない応募者に面白いダンスが多いのだと、複数のダンスウオッチャーは解説する。
たとえばボクデス(小浜正寛)。代表的な演目の「蟹(かに)ダンサー多喜二」は、黒眼鏡、黒スーツの男が、ジェームズ・ブラウンやアバなどのダンスナンバーに合わせて踊る。両手と頭の上には、生のズワイガニ。カニの10本足が、確かに踊っているようにシェークする。
たとえばピンク。「子羊たちの夕焼けボート」では、「過呼吸乙女」を自称する、チアリーダーの格好をした女性3人が、不必要なほど動き回り、転げ回る。お下品なキャットファイトのようでも、ドリフのバックで踊るスクールメイツのようでもある。
KATHYは女の子3人のユニット。古風なドレスに身を包み、金髪のカツラを被った謎の女。ギャラリーやアート専門書店、東京大の表象文化論学会などへ神出鬼没に現れ、踊る。ミステリアスな状況設定だが、黒いパンティーストッキングを、脚の部分が目にあたるようにして頭に被っている。ぼよろーんと目玉が飛び出る「びっくり眼鏡」みたいな間抜け感。脱力した空気が濃厚に漂う。
ピンクはトヨタアワード予選落ち。小浜も、山賀/泉も、当然のように最終審査では落ちた。ダンスの概念が、違いすぎるのだ。
ダンスキュレーターの桜井圭介さんによると、こうした「コドモ身体」、もしくは「ダメ身体」によるダンスは、’00年代に現れた新しい潮流なのだという。ニブロールやそれに続くチェルフィッチュといった人気カンパニーがその嚆矢(こうし)だ。「磨きぬかれた身体の美、高度なテクニックを披露するのではなく、むしろふつうの身体、ダメな身体、コドモの体のようにコントロールのきかない、一見、不器用な動きの方が、グルービーなのではないかということに気づいた」(桜井さん)ダンサーたちの一群だ。
日本女子大講師の木村覚さん(美学、ダンス批評)も、康本雅子、手塚夏子らトヨタで本賞をとれなかった人たちの名前をあげ「コントロール不可のダンスに新しい可能性」を見る。「私たちには『身体ってこういうもの』という思いこみがあり、そのイメージの中で身体と付き合っている。そしてダンサーは鍛錬とテクニックで、身体を『動かそう』とする。でも、『動かされてしまう』身体にこそ面白さはある。不意の状態にあたふた、七転八倒。そういう身体こそ、見るべき身体なのではないか」
◆ボクデスインタビュー
――これ、お笑いなんですか?
ユーモアは大事だけど、客を笑わせるのを最終目標にしてないからお笑いじゃない。ダンスとは(1)動きを見せる(2)身体を見せる、の2要素でできていますよね。僕は新しい動き((1))を見せたかった。自分の身体((2))を使ってではなく。だから生のカニを使ったり、カレーの早食いやってみたり、ラーメンみたいに見えるゴムひも使ったり。
――蟹ダンサー多喜二の発想は?
もちろん『蟹工船』からです。先に名前ありきで、蟹ダンサーがいたらどんな動きをするのかなあって考えてた。横歩きかなあ。泡吹く? それじゃつまんないって、カニをブラブラさせていた。カニの足がいい動きしてた。グルーブがあったんです。ジェームズ・ブラウンみたいなね。だから曲もJBに。
――ダンスの素養は?
ないですよ。体硬いし猫背だし。そもそも身体に興味ない。絶対に修業しないというのを自分に課したんです。そういう方法論でもダンサーたり得る。そう思ってます。(近藤康太郎)