他人同士だった男女が一つ屋根の下で暮らす――。結婚生活の不可思議さ、残酷さ、悲惨な醜さをこれでもかと暴いた「死の舞踏」を、演劇集団円が上演している。
スウェーデンの作家ストリンドベリが百年以上前に書いた戯曲だ。生涯に3度の結婚と離婚をした作家だけに、執拗(しつよう)な女性不信と孤独への恐怖が、激流のようなドラマの通奏低音となっている。
老砲兵大尉エドガー(橋爪功)と元女優の妻アリス(高林由紀子)は、孤島の要塞(ようさい)で長年いがみあって過ごしてきた。銀婚式を目前に、妻のいとこクルト(藤田宗久)が検疫所長として赴任してくる。夫婦は、互いにこの善意の闖入者(ちんにゅうしゃ)を利用して、優位に立とうとするが……。
ベテラン3人の丁々発止の演技には、まるで熟年離婚の危機にある現代の夫婦をのぞき込むようなリアルな手触りがある。ことに傲岸(ごうがん)さと弱さを絶妙な配分で見せ、悪魔のような男に魅力をも宿らせる橋爪が光る。心臓病のエドガーは時折気を失う。唐突にくずおれ、半眼で失神し、何事もなかったかのように回復する。この一連の体技は、練達の舞台俳優を間近で見る喜びを再確認させてくれる。
裏切りの応酬の果て、「死が訪れる時、命が始まる」と夫は妻に語りかける。嫉妬(しっと)と憎悪の煉獄(れんごく)に焼かれることでしか愛を確かめられない2人。部屋中にともされたロウソクを次第に消してゆく終幕が、夫婦の運命を物語る。
救いのない話なのに客席は大いに沸く。5月末に死去した台本・演出の安西徹雄は、死と絶望に覆われた戯曲と向き合いつつも、背景にある愛と希望も深く洞察した演出案を残した。血肉ある人間にこだわった演出家らしい「白鳥の歌」だ。(藤谷浩二)
31日まで東京・田原町のステージ円。