市川染五郎(左)と松尾スズキ=福留庸友撮影
市川染五郎が東京・渋谷のシアターコクーンで上演中の松尾スズキ作・演出の新作「女教師は二度抱かれた」に主演している。古典歌舞伎をはじめ、劇団☆新感線への客演や三谷幸喜と組んだ「パルコ歌舞伎」で華々しい活躍を続ける染五郎にあてて松尾が書いたのは「周囲に振り回される、ひたすら地味な役」だ。
松尾が主宰する大人計画の舞台を見てきた染五郎は「面白くて、こわい。観劇後も分からない部分をずっと考えてしまう。そんな松尾さんの世界で、欠点や矛盾を持つ人間くさい役を演じられるのがうれしい」と語る。
染五郎が演じるのは演劇界の風雲児と呼ばれる若手演出家・天久。異端の歌舞伎女形・栗乃介(阿部サダヲ)と現代の歌舞伎の創造に乗り出すが、そこに高校演劇部の顧問だった元女教師・山岸(大竹しのぶ)が現れる。破天荒な言動を繰り返す栗乃介と過去からの悪夢のような山岸に翻弄(ほんろう)され、順風満帆に見えた天久の運命は狂っていく。
松尾にとってミュージカル「キレイ」、中村勘九郎(現・勘三郎)主演の時代劇「ニンゲン御破産」に続くシアターコクーンでの第3弾。過去2作のような大仕掛けからは離れ、笑いと毒に満ちたバックステージもののせりふ劇になった。「小劇場、歌舞伎、新劇……これまで自分が出合ってきた演劇を全部入れこんで、繊細な感じの戯曲を書きたかった」と松尾。「だから、取材はほとんどせずに済んだ。うちの社長に、芝居や劇団の経費について聞いたぐらい」と笑う。
「欲望という名の電車」のブランチを演じた大竹とは、「ホットティーチャー(教え子と関係する教師)の話をやりたいと思っていた」と松尾は言う。そこに「格好いい染五郎さんにあえて格好悪い役をやってもらう」ことで構想がふくらんだ。「染五郎さんは自然なたたずまいと、絶妙な演技の間がすごくいい」
染五郎は「歌舞伎はカタルシスをカタルシスとして盛り上げるエンターテインメント。松尾さんの作品はそこからはみ出し、感動や美しさだけで終わらないのがすごい。生々しく、一方、とても演劇的でもある」と語る。
市川実和子、浅野和之、荒川良々、平岩紙、松尾ら共演。27日まで。当日券あり。電話03・3477・3244(Bunkamura)。(藤谷浩二)