柄本明さん
俳優の柄本明が今年60歳の節目に、半生をふり返った著書「東京の俳優」を出した。舞台のみならず、映画やテレビにも精力的に出演、主役から気の利いたチョイ役まで自在にこなす「怪優」にとって、演じるとは何なのだろう。
「なぜ出演が多いかって、そんなのわかりませんよ。俳優は潜在的失業者ですから、都合のつく限り、オファーは受けるようにしています」
映画出演が増えたのは「カンゾー先生」(98年)の頃から。今年はとりわけ多く、「ぐるりのこと。」のベテラン記者や「ラストゲーム 最後の早慶戦」の早大野球部顧問を味わい深く好演。近く「イキガミ」「ICHI」の公開も控えている。
■出会い楽しい
27日公開の「石内尋常高等小學校 花は散れども」では96歳の新藤兼人監督の恩師役に。はつらつと教鞭(きょうべん)をとる若き日の姿と、定年後に病に倒れ、会話が不自由になった姿を演じ分けている。
「映画は監督のものだと思っています。配役で向こう側がイメージを固めているわけですから、こちらはホン(脚本)を読み込んで役作りをするしかない。でもホンとの出会いは楽しい」
新藤監督との出会いも脚本だった。96年、新藤脚本、川島雄三監督の映画「しとやかな獣(けだもの)」の舞台化をきっかけに初めて会い、「生きたい」「ふくろう」に出演した。
「へんな言い方ですけど、ヘンタイですよね。小津や溝口もそうですが、映画監督の方法論は女の体を触るときの方法論なんかと同じで、年をとるにつれてあらわになっていく。今回も100歳近くとは思えない、みずみずしい演出に圧倒されました」
舞台でも最近、作家との出会いを改めて楽しんでいる。たとえば28日から始まる舞台「瀕死(ひんし)の王」のイヨネスコ。
「とにかくわからないのが面白い。少し前から外国の芝居をやるとき、自分たちのセリフなのだからと、原語から訳しています。発見があって面白いのですが、とにかくわからない。でも、そんなわからないセリフが体を通って出ていくのが気持ちいい。逆に最近、映画でも本でもわかるものが多いじゃないですか。あれって、悪い意味で何が面白いのかわからない」
■自伝本を出版
「東京の俳優」では、東京の下町に生まれ、会社勤めをへて、「青春の誤解」から役者となり、劇団「東京乾電池」結成、現在に至るまでが語られている。で、60歳。
「死ぬということが具体的になってきました。最近、仲間や好きだった人たちが何歳で死んだかを思うことが多くて。若くして逝った、たこ八郎や相米慎二、60を超えて死んだ父親や渥美清。彼らの仕事を思いつつ、我が身を思うといったところでしょうか」(野波健祐)