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甘く鋭く「非現実へ」舞台で吸血鬼の伯爵役 山口祐一郎

2009年5月22日

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写真山口祐一郎

 舞台で、たゆたっている。

 「劇全体の空気を自分の中で一体化した上で、ただ、持って行かれ、置かれるような場所にいる感じなのです」。舞台に溶解していく感覚なのだろうか。そして、たどりついた場所で、盤石の歌が始まる。

 再演のミュージカル「ダンス・オブ・ヴァンパイア」で、吸血鬼クロロック伯爵を演じる。ロマン・ポランスキー監督の映画を原作に、ミヒャエル・クンツェが脚本を執筆し、ジム・スタインマンが作曲した。吸血鬼のイメージにつきまとう怪奇、凶暴、みだら、美、孤独、笑いなどが盛り込まれている。

 初演はウィーンで97年。クンツェは、06年の日本初演に満足したという。

 「脚本家や作曲家が振り返って、別人の手によるものか、と思わせるような、奇跡的作品だと思う」。神の観念が欧州とは異なることもあって「僕たちは、台本の背景となる神の文脈を意識せずに演じているので、その取り合わせが欧州などとは違う新解釈を示すことになったのでは」と話す。「抱きついたり襲いかかったり肉体的な動作を控えることで、精神的なものがうまく伝わりやすくなっているのかもしれません」

 伯爵の歌は、中高音域の音を長々と伸ばしたり、持続音の中で言葉を粒立てたり、難度が高い。「舞台のスタッフワークと連動している曲なので勝手に短縮できず、『この長さでなければならない』という個所では、貧血で倒れそう。2曲分の歌唱量を要求する曲もあるんです」

 正確な音程、言葉も明瞭(めいりょう)に響く。時に甘く、時に鋭く。しかし、どすんと地に根を張ったような声ではない。どこか中空を漂い、浮遊する。それが誇り高い吸血鬼に似つかわしい。これまでも「オペラ座の怪人」の怪人、「エリザベート」の黄泉の帝王トート、「マリー・アントワネット」のカリオストロなど非現実的な存在も演じてきた。

 「若い頃から、他者とのコミュニケーションなしに、ただ無為に都会に一人たたずむ時間を多く過ごしてきたせいかもしれない。自分のことを、大多数が無視してもいいような、透明な少数派のような気がします」と、てらいもなく言う。

 「そんな人間も生き生きできるミュージカルって、本当に奇跡の環境ですね」

(文・米原範彦、写真・御堂義乗氏)

    ◇

 やまぐち・ゆういちろう 56年生まれ。81年、劇団四季「ジーザス・クライスト・スーパースター」でデビュー。現在、東宝ミュージカルなどで活動。「ダンス・オブ・ヴァンパイア」は7月5日〜8月26日、東京・帝国劇場で。

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