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快い「トライアングル」 明治座「晩秋」

2009年11月17日

 あの森光子が、新作舞台に出演している。東京の明治座で上演中の「晩秋」(マキノノゾミ作・演出)。森、八千草薫、坂東三津五郎がトライアングルの快い響きを奏でている。

 大学病院の医療過誤隠しに悩む医師春彦(三津五郎)が小学校時代の恩師清子(八千草)に導かれて故郷の島を訪れる。清子の話に出てくる父の医師勝彦(三津五郎の二役)、母志津子(森)らが春彦に正しい道を示す。

 ミスをウソでごまかさず、苦しくとも真実を受け入れることで愛に満ちた幸せがやってくる――がテーマだろう。浄化作用をもたらす主筋だが、各場面の細部に説得力と魅力がある。

 島を舞台にしたことは、時に桃源郷を思わせることもあり、巧みな設定といえる。効果的な音楽とナレーションを多用。勢い、対話は短くなる。もう少し聞きたくもなるが、森、八千草、三津五郎の対話密度が高いため、ぶつ切りにならない。全編にわたり、涙の小波に揺れる小舟に乗るような感傷の心地よさがある。

 約3時間のうち、森の出番は計約30分というところだが、他の人物のセリフに志津子の存在がにおう。森は振り袖姿で「センチメンタル・ジャーニー」を歌う。声はクラブのムードのように十分けだるい。終盤は、子供への愛情にあふれながら投げやりな人物を表現する。八千草には、映画「二十四の瞳」の大石先生を重ねたくなるが、そのイメージを受け入れつつ、悔恨に曇る心情もていねいに描く。

 三津五郎の父子演じ分けは安定し、実直な人間になりきった。若き日の清子役を、星野真里が芯のあるセリフで好演する。最後のセリフは森の「いいねえ」。このセリフ、そのまま、舞台にお返ししたい。

 27日まで。(米原範彦)

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