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舞台の緊張感、成長の糧 「マレーヒルの幻影」の麻生久美子

2009年11月27日

写真麻生久美子さん=鈴木好之撮影

 映画女優という言葉が死語になった時代に現れた最後の映画女優。そんなイメージを勝手に抱いていただけに、ほんわかとした雰囲気を漂わせ、無邪気に「アハハハ」と笑い転げる素顔が新鮮、かつ魅力的だ。

 12月の初舞台を控えた東京都内の稽古場(けいこば)。映画女優から舞台女優へと、新たなステップを踏み出した彼女に会った。

 「映像と違って舞台は終わりが見えない。声の出し方や立ち方ひとつとっても違う。やっぱり難しいなと感じています」

 劇作家・岩松了の新作。大恐慌に揺れる1929年のニューヨークに生きる日本人の物語。そして、小劇場の街・下北沢の本多劇場での上演。この三つを聞いただけで「何かもうピンときて」、出演を即断した。

 岩松作・演出「マレーヒルの幻影」はフィッツジェラルドの小説「グレート・ギャツビー」がモチーフ。裕福な日本人実業家ソトオカ(ARATA)と彼の元恋人・三枝子(麻生)の悲恋に、経済状況が人生を左右する世相を重ね焼きしたドラマだ。美しい追憶の世界であると同時に、昨年来の金融危機を反映した現代劇でもある。

 「三枝子はひとつのまっすぐな思いを持つがゆえに複雑なものをまとう役。演じたことのない役柄です。体で覚え、自然とその世界になじんでいきたい」

 ドラマ「時効警察」や映画「たみおのしあわせ」で組んだ岩松への信頼は厚い。「岩松さんはいい意味でずるい人。俳優として共演したときは人のお芝居に何も言わないのに、演出家の立場になると一変して厳しい。それがまた格好いい」

 若手きっての演技派という周囲の評価とは裏腹に、「20代の半ばまで、ずっと自分の芝居が好きじゃなかった」と打ち明ける。「『時効警察』で一番難しいと思っていたコメディーに挑戦できて、自分の役(三日月婦警)も勝手に進化していった。ダメなところも含めて、芝居が楽しめるようになった」

 これまで観客の前に立ったのは映画の舞台あいさつぐらい。「素の自分を出すから苦手でした。今回は役を演じられるとはいえ、毎回どんな反応が来るかわからない。やはり不安です。でも、この緊張感が私には必要だと思う」。カメラが観客の目に変わっても、女優・麻生久美子に揺るぎはない。(文・藤谷浩二 写真・鈴木好之)

    ◇

 あそう・くみこ 78年、千葉県生まれ。映画「カンゾー先生」「夕凪の街 桜の国」「インスタント沼」など。舞台「マレーヒルの幻影」は12月5〜27日、東京・下北沢の本多劇場。1月9日、大阪のシアター・ドラマシティ。

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