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文学座アトリエの会「崩れたバランス」 「心のホワイトアウト」描く

2009年12月5日

 ホワイトアウトという現象がある。一面の雪景色の中で吹雪や雪煙に包まれ、自分がどこにいるのかわからなくなることだ。文学座が20年ぶりにドイツ戯曲に取り組んだ「崩れたバランス」は、極寒のクリスマスイブのベルリンを舞台に、孤独な都市生活者の「心のホワイトアウト」に迫る。

 劇作・演出・オペラ演出を手がける気鋭のファルク・リヒターの戯曲をベルリン留学帰りの中野志朗が演出した(新野守広訳)。一見関係ないが、小さな接点を持つ人々のスケッチをコラージュのように連ねる手法は、映画「マグノリア」を思い出させる。人間関係に疲れ、病んだ心を抱える現代人の群像劇という点も似ている。

 だが、そのスケッチを流れのある物語に回収せず、激しい身体演技や寓意(ぐうい)を込めた劇中劇も使い、超現実的に描くのが表現主義の流れをくむドイツ演劇らしい。つまり、戯曲自体のはらむ「崩れたバランス」が、登場人物の不安を増幅する回路になっているのだ。

 ベッドの中の心通わぬ恋人(中村彰男、鬼頭典子)、ストーカー的なゲイの劇作家(櫻井章喜)、芝居の稽古(けいこ)に励む役者(松井工、片渕忍、椎原克知)……。中野は対面式の客席を設け、その底の白い舞台に人々を放り込む。俳優は客席の階段や通路でも演じる。電話の通話をマイクで交わしたり、床に映像を投影したりと工夫を凝らした演出は、彼らのジタバタぶりを観客に体感させる。

 ただ、俳優陣は熱演に偏りがちな一方、役や場面の転換時に素の状態に戻る。この落差が気になった。それはリアルな演技にたけた劇団と実験作との相性の問題でもあるのだろう。中で、役者の父を空港で待つ少年(渋谷はるか)と劇作家の老母(本山可久子)が孤独を分かちあう場面に、この劇団らしい情感がある。(藤谷浩二)

 13日まで、東京・信濃町の文学座アトリエ。

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