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〈回顧2009〉今年の演劇を振り返る

2009年12月7日

 超大作、祝祭、公共劇場。三題噺(ばなし)風に今年目についた潮流を挙げると、こんな言葉を思いつく。

■相次いだ超大作

 まず超大作。9時間を超える現代演劇が相次ぎ上演された。新国立劇場のシェークスピア史劇「ヘンリー六世」は鵜山仁芸術監督のダイナミックな演出が冴(さ)え、裏切りと報復の連鎖する戦乱の15世紀英国が現代世界の縮図に見えた。

■満ちる祝祭感

 シアターコクーンで19世紀ロシア知識人の群像劇「コースト・オブ・ユートピア」を演出したのは蜷川幸雄。英劇作家トム・ストッパードの緻密(ちみつ)な戯曲を人気俳優が真っ向から演じた。二つの舞台にはライブ芸術ならではの祝祭性が宿っていた。

 そんな祝祭感を時間的、空間的に広げる国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」が春秋の2回開かれたのも収穫だ。ドイツ発の「カール・マルクス:資本論、第一巻」は元革命家や経済学者らによるドキュメンタリー演劇。他にも実験作を並べたが、集客も反応も上々だった。今後、欧州のようなフェスティバル文化が根づくかが注目される。

■元気な公共劇場

 野田秀樹が東京芸術劇場の初代芸術監督となり、自作「ザ・ダイバー」で就任公演をした。前田司郎や岩井秀人ら若手劇作家を紹介するシリーズも企画上演。地味な貸し館だった劇場に祝祭感が満ちた。彩の国さいたま芸術劇場(蜷川芸術監督)は高齢者劇団「さいたまゴールド・シアター」が「アンドゥ家の一夜」で高い成果をあげ、無名の若手劇団「さいたまネクスト・シアター」も旗揚げした。世田谷パブリックシアター(野村萬斎芸術監督)は「奇ッ怪」を企画制作し、新鋭の前川知大を小泉八雲の怪談と出あわせた。長く劇団が担ってきた人材育成が公共劇場の手に移りつつある。

 地域密着型の座・高円寺(東京都杉並区、佐藤信芸術監督)も開場。公共劇場の競争時代が到来する中、新国立劇場では運営財団の芸術監督交代手続きを批判した演劇人の理事2人が辞任した。当の財団は民主党政権の事業仕分けで存続の必要性をただされた。公共劇場はどうあるべきか。幅広い議論が必要だ。

 「屋根の上のヴァイオリン弾き」の森繁久弥氏が96歳で死去。歌舞伎座は来春からの建て替えに向けて1年4カ月に及ぶ「さよなら公演」に入った。森光子が「放浪記」2千回を達成。国民栄誉賞を受けた。

 超大作も劇の祝祭性も優れた俳優なしにはありえない。例えば「ヘンリー六世」の浦井健治、中嶋朋子、木場勝己。「コースト」の阿部寛、勝村政信。「炎の人」の市村正親。「ムサシ」の藤原竜也、小栗旬、白石加代子。「盲導犬」の稲荷卓央。「天守物語」の坂東玉三郎……。瞬時に消える演技という芸術に打ち込む俳優の充実は、2010年代に向けた希望に思える。(藤谷浩二)

    ◇

〈私の3点〉評者50音順 (敬称略)

大笹吉雄(演劇評論家)

▽新国立劇場「ヘンリー六世」3部作(シェークスピア作、小田島雄志訳、鵜山仁演出)

▽ホリプロ「炎の人」(三好十郎作、栗山民也演出)

▽世田谷パブリックシアター「奇ッ怪――小泉八雲から聞いた話」(前川知大構成・脚本・演出)

扇田昭彦(演劇評論家)

▽「ヘンリー六世」

▽蜷川幸雄の演出(「ムサシ」「雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた」「アンドゥ家の一夜」「コースト・オブ・ユートピア」3部作など)

▽フェスティバル/トーキョーでのリミニ・プロトコルの公演(「カール・マルクス:資本論、第一巻」「Cargo Tokyo−Yokohama」)

徳永京子(演劇ジャーナリスト)

▽ままごと「わが星」(柴幸男作・演出)

▽フェスティバル/トーキョー「4.48サイコシス」(サラ・ケイン作、飴屋法水演出)

▽さいたまゴールド・シアター「アンドゥ家の一夜」(ケラリーノ・サンドロヴィッチ作、蜷川幸雄演出)

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