現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 舞台
  4. 演劇
  5. 記事

世界屈指のソプラノ、デセイのための椿姫 「私の到達点」

2009年12月24日

 人気、実力ともに世界最高のソプラノの一人、ナタリー・デセイが、来夏のトリノ王立歌劇場の来日公演で、ベルディのオペラ「椿姫」のビオレッタ役に挑む。演出はデセイの意見を全面的に採り入れ、「高級娼婦(しょうふ)の孤独」に焦点を絞った。「自らのキャリアの到達点」という、まさに「デセイのための椿姫」だ。

 「椿姫」は、享楽に明け暮れる上流社会の虚構のなかで真実の愛を描く物語だ。

 社交界の花形、高級娼婦のビオレッタは、世間知らずの若者アルフレードと恋に落ちる。しかし幸せは続かない。世間体を気にするアルフレードの父ジェルモンに諭され、身をひく。

 裏切られたと思っていたアルフレードは真相を知ってビオレッタの元を訪れるが、彼女は病に侵されていた。最後はアルフレードの腕の中で静かに息をひきとる――。

 ところが、パリで取材に応じたデセイは、こうした従来の演出に強い疑問を抱いていたと明かした。

 「ビオレッタはあくまで娼婦であって、清純で上品な女性ではない。あんな美しいラストはあるはずがない」

 20年以上の念願だったビオレッタに挑むことを決意し、「兄のような存在」という演出家のローラン・ペリと話し合った。こうして、原作のデュマの小説に忠実な「デセイのための椿姫」が完成した。

 今夏に米国のサンタフェで初演された新演出は斬新だった。参列者もまばらなビオレッタの葬儀で幕が開け、最後はだれにもみとられることなく死んでいく。病床に駆けつけたアルフレードやジェルモンの姿は、実は夢だったというあまりに悲しい結末だ。

 「ビオレッタは娼婦である過去を消し去って、心が澄み切った女性として生きたいと願う。だが、過去は消せない。ジェルモンに、はっきりとそう伝えられる。ジレンマから逃れ、救われるためには死ぬしかなかった。彼女の死は病によるものではなく、罪滅ぼしの死なんです」

 ビオレッタは、技術的にもソプラノ歌手にとって最大の難関。その難役を、自分の意見を最大限に採り入れた演出で挑戦する意義についてデセイは「私の仕事の到達点であり、声の極限。これ以上先には進めない」と言い切る。

 日本公演でもう一つ注目されるのは夫婦共演。ジェルモン役はデセイの夫のバリトン歌手、ローラン・ナウリだ。デセイは「舞台でも人生でも心から愛している」と共演を喜ぶ。

 トリノ王立歌劇場の日本公演は、「椿姫」のほか、バルバラ・フリットリがミミ役のプッチーニ「ラ・ボエーム」も演じられる。来年7月23日から8月1日にかけ、東京文化会館と神奈川県民ホールで計7公演の予定。指揮はジャナンドレア・ノセダ。電話03・5237・7711(ジャパン・アーツぴあ)。(丸山玄則)

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内