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英留学の成果新作に 劇作家・長塚圭史の挑戦

2010年1月17日

写真拡大長塚圭史=門間新弥撮影

 昨秋、1年間の英国留学から帰国した劇作家の長塚圭史が、主宰する阿佐ケ谷スパイダースで再始動した。新作「アンチクロックワイズ・ワンダーランド」は作劇法やけいこに留学の成果をとりいれ、「演劇の可能性」に向き合った舞台だ。

 文化庁の新進芸術家海外研修制度で一昨年秋に渡英。ロンドンのナショナルシアターで多くの俳優や演出家と交流した。「年明けからその年のクリスマス公演のワークショップを始めるなど、プロセスへの時間のかけ方が段違い」

 そんな創作環境で、もっとも刺激を受けたのが創造性豊かな俳優たちの姿勢だった。井上ひさし「父と暮(くら)せば」、三好十郎「胎内」を題材にワークショップを行った長塚は「正式に上演されない作品でも、俳優たちは議論を重ね、アイデアを繰りだすことそのものを楽しんでいた。この雰囲気を日本に持ち帰りたいと思った」。新作は何もない状態での俳優とのワークショップから出発。そこでの発見を戯曲や配役につなげた。

 表題にある「反時計回り」の意のごとく、創作に悩む作家(光石研)がある事件に巻き込まれる中で、自らが紡いだ物語の登場人物と出会っていく。「作家について書こうと漠然と決めていたが、こんなに自問するとは」と苦笑し、こう続ける。「僕らの許容量を超えた情報が氾濫(はんらん)する時代に、時間と記憶を通して限りなく自分の奥底を見つめることが可能かを考えつづけた」

 ロンドンでの劇場通いで、観客への信頼も揺るぎないものとなった。「チケットを買い、劇場まで来て席につく。その時点で観客の想像力は最大限になっている。幻想を受けいれる観客の力と作り手の思いがうまくつながれば、演劇は世界の見方を変える力になる」。こうした思いを反映させるべく、21日から24日まではプレビュー公演とし、観客の反応をみて作品を手直しする。また、毎公演20席を格安の3千円で販売するR20シートを設け、新たな観客との出会いもめざす。

 帰国後、俳優の常盤貴子と結婚した。ともに忙しい日々が続き、新婚生活らしさは「まだないですね」と話す。帰国直後から新作に専念してきた表情には、すがすがしささえ宿っていた。

 加納幸和、中山祐一朗、伊達暁、小島聖、馬渕英俚可ら出演。東京公演は下北沢・本多劇場で2月14日まで。5500円(プレビュー4千円)。その後大阪、福岡、札幌、名古屋など巡演。電話03・3466・0944(ゴーチ・ブラザーズ)。(藤谷浩二)

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