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悲劇マクベスに新たな世界観 世田谷パブリックシアター

2010年3月16日

 過剰なまでの混沌(こんとん)とエネルギーに満ちたシェークスピア劇をぎりぎりまでシンプルにそぎ落とし、そのうえで作品に新たな光をあてる。野村萬斎が構成・演出・主演した「マクベス」は、まるで京都・竜安寺の石庭のように、限られた時空間から悠久の時と広大な世界を感じさせる舞台だ。

 冒頭、「森羅万象、宇宙の塵(ちり)、文明の澱(おり)、人間のゆがみ」といったナレーションが流れる中、背景の漆黒の宇宙を切り裂くように、舞台中央の地球を模した半球(美術・松井るみ)からマクベス(萬斎)が現れる。3人の魔女の予言に導かれ、王権の簒奪(さんだつ)から周囲への疑心暗鬼、そして破滅まで、マクベスとマクベス夫人(秋山菜津子)は1時間半で人生を駆け抜ける。劇の疾走感を途切れさせず、一方で印象的な独白やせりふを多く残した台本(河合祥一郎訳)の構成がまず優れている。

 さらに、演出にも萬斎独自の視点がある。象徴的なのは、魔女を演じる高田恵篤、福士恵二、小林桂太がバンクォーやマクダフなどマクベス夫妻以外のすべての役を演じることだ。この仕掛けにより、予言(=他者が定めた運命)に従って生きざるをえない夫妻の悲劇性が浮き彫りにされる。

 萬斎のマクベスは狂言師らしい瞬時の感情の切り替えと身体のキレに加え、説得力のあるせりふが魅力的だ。非情なまでの強さから繊細な弱さまで、多彩な感情を積み重ねてマクベス夫人を造形する秋山にも精彩がある。

 この生命力に満ちた2人がはかなく滅んでいく様に、萬斎は「平家物語」を思わせる無常観を重ねてみせた。紅葉から雪景色へ移り変わる中、マクベスは倒れる。そして春が訪れた時、自然はそこに驚くべき光景を生みだす。この新解釈への、外国人観客の反応を見てみたいと思った。(藤谷浩二)

    ◇

 20日まで、東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアター。

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