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官僚主義 笑いで風刺 劇作家・永井愛「かたりの椅子」

2010年3月28日

 劇作家・永井愛の3年半ぶりの新作「かたりの椅子(いす)」が4月2日から18日まで、東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで上演される。自らも当事者としてかかわった新国立劇場の芸術監督交代人事問題を出発点に、誰の心にも巣くう「官僚主義」を笑いで風刺した喜劇だ。

    ◇

 舞台は東京郊外の架空の街・可多里市。初開催のアート・フェスティバルに向けて奔走する雇われプロデューサー(竹下景子)を主人公に、アート企画を提案した造形作家(山口馬木也)、文部科学省の元エリート官僚だった市文化振興財団理事長(銀粉蝶)や都庁出身の常務理事(大沢健)、地元文化人の市立美術館長(花王おさむ)らが繰り広げる騒動を描く。

 この新作で永井が見つめたのは根回し第一で秘密主義、そして公の場での意見の相違をトラブルと考える「日本人の官僚的な精神風土」だ。

 プロデューサーと造形作家らは、街中に展示した多くの椅子に市民が自由に座って街のあり方を語り合う「かたりの椅子」プロジェクトと、米軍基地をめぐり住民闘争があった街の歴史を探る市民劇を企画。だが、「家族で楽しめる明るいイベント」をめざす理事長は「負の歴史」を掘り起こす彼らの動きを警戒し、企画の見直しを求める。

 ドラマは、思い通りのフェスティバルにしようと権力をふるう理事長が悪、それに抵抗するプロデューサーや造形作家が善という単純な図式には収まらない。

 「『波風を立てぬように』と黙っている間に、問題をはらみながらも大きな出来事がいつのまにか決められてしまう。官の側も民の側も、そこに加担することが私の考える官僚主義です。その危うさを作品の形で検証したかった」

 新国立劇場運営財団の理事だった永井は一昨年夏以降、演劇部門芸術監督の交代手続きの不備を指摘して財団執行部を批判。「理事会で自由な議論が許されなかった」として、昨年6月に理事を辞任した。その間の水面下の説得や関係者の高圧的な言動など、自ら体験した生々しい挿話も戯曲に盛りこんだ。

 だが、永井は「個人的な経験を描くのが目的ではない」と言う。「芸術と公共性」に関する多くの事例を取材するうちに、個人が自由に省察する芸術活動と、事なかれ主義や管理に傾く官僚主義とのせめぎあいに気づいた。

 「井上ひさしさんに電話で『このことを面白いお芝居にするべきです』と励まされた。違う意見の持ち主がとことん話し合い、知恵を集めることで、新しい発見が生まれる。その可能性を信じたい」

 演出も永井。5500〜4000円。電話03・3991・8872(二兎社)。(藤谷浩二)

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