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凝った作劇さりげなく発揮 扉座「神崎与五郎 東下り」

2010年5月28日

 横内謙介には、市川猿之助の「スーパー歌舞伎」の台本を何本も手掛けた、小劇場出身の劇作家としては異例のキャリアがある。その力量が作・演出した劇団の新作で発揮された。主演の六角精児、客演に迎えた猿之助一門の市川笑也ら俳優の魅力を前面に出し、分かりやすい展開で観客を楽しませるが、作劇はなかなか凝っている。それをさりげなく差し出す手つきに、うまさが光る。

 「おやまルンバ」がヒット中の大衆演劇出身のスター、高塚旭(笑也)が、酒におぼれるタクシー運転手・宇佐見(六角)を訪ねてくる。宇佐見はかつて旭の兄弟子だった。問題を起こし一座を追われたが、新座長になった旭が、先代の追善興行に出演させたいと迎えにきたのだ。喜んだ宇佐見は酒を断ち、けいこに励むが……。

 追善の演目が「神崎与五郎 東下り」。赤穂義士の神崎が、旅の途中で馬子にからまれるが、大事の前にもめ事を起こしてはいけないと耐えた話だ。馬子は宇佐見の当たり役。そのけいこが劇中劇として挿入され、公演を成功させるために悔しさをこらえる宇佐見の現実が芝居の神崎と重なってゆく。

 粗暴な酔っぱらい、腕のいい役者、不器用な父親、男気あふれる好漢。宇佐見の様々な顔を六角が太い線で描く。時にすごみも感じさせる好演だ。笑也は、上り坂の役者にふさわしい華と苦労人らしいやさしさがあり、時に人の上に立つ者の鋭さも見せる旭を、魅力的に造形した。

 岡森諦が、旭を支える亀吉を誠実に表現し、中原三千代が一座のベテラン女優のしたたかさと情味をうまく出している。

 劇中に登場する役者たちは、普段の言動もどこか芝居がかっていて、演じることと実人生の境目が、時に見えなくなる。そんな人たちが繰り広げる人情話が、おかしくて、哀(かな)しい。(山口宏子)

    ◇

 30日まで、東京の座・高円寺。

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