現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. テレビ・ラジオ
  5. 記事

オレたちの言葉で語ろう ラジオ「Life」秋葉原事件特集

2008年6月24日

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 このエントリをYahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真鈴木謙介さん(右から2人目)の司会で、秋葉原殺傷事件について明け方まで議論が続いた=23日午前3時、東京・赤坂、小暮誠撮影

 深夜ラジオ番組「文化系トークラジオ Life」(TBS)が23日午前の放送で、秋葉原殺傷事件を取り上げた。司会は、ネットや若者について発言してきた若手社会学者の鈴木謙介さん(32)。番組ホームページの予告編で、鈴木さんは「事件について何を言えばいいのか僕は分からない」とリスナーに語りかけていた。(塩倉裕)

 「Life」は06年10月に始まった。鈴木さんを中心に、フリー編集者の仲俣暁生さん(44)ら30〜40代のパーソナリティーが、社会問題やサブカルチャーを話題に2時間半、語り合う。番組は先日、ギャラクシー賞(ラジオ部門)の大賞を受賞した。

 取り上げたテーマはロストジェネレーション、自分探し、東京、ネット、労働、友達など。リスナーの中心層は10代後半〜30代前半だ。

 事件のあと鈴木さんのもとには、事件の解説や分析を求める取材依頼が殺到した。『暴走するインターネット』『ウェブ社会の思想』などの著書があり、求められれば冷静な読み解きを披露してきた鈴木さんが今回、解説的なコメントをすべて断った。

 後輩の友人が事件の犠牲になったという。安否を確認しようとした警察署で、十数人の記者から取材されかけた。思わずカメラを手でさえぎり、泣き続ける後輩に付き添った。「ショックでした。『当事者性』に巻き込まれ、言葉を失ってしまった」

 予告では、リスナーに「事件は語られていく。解釈が出され、いずれ落ち着くかもしれない。けどそうなる前に今のオレたちの言葉をしゃべった方がいい」と呼びかけた。

 23日午前1時半、東京・赤坂のスタジオで放送が始まった。約400通のメールが寄せられた。

 「もうやめにしませんか。事件に何らかの象徴を見いだして騒ぎ立てるのは」。格差、秋葉原、派遣、異性にもてない……。メディア上に“解釈の言葉”が流通する状況への批判メールだった。

 「(容疑者の)書き込みを読んで、ひと事じゃないなと感じた」と書いたのは、容疑者と同じ25歳のリスナーだ。同年齢の別の男性は「苦しくて仕方ない」と書いた。

 メールを読みあげながら鈴木さんは、「過剰な物語化は確かに問題だ」と応じつつ、「言葉や語りを必要とする人間もいる」「(人々が事件に託す)言葉や欲望を僕らは止められない」と語った。

 鈴木さんが言葉を回復したきっかけは事件の約1週間後、ある座談会だった。“識者”ではない同世代の人々と本音の言葉を交わす中で、力が回復する実感を得た。

 「苦しい」の語りを見つけよう。他者の話を聴いて、「一つしかない自分の物語の声」をかけよう。誰も殺させないために。マイクで、そんなメッセージを伝えた。

 社会学者として事件後に受けとった示唆は何か、放送後に尋ねてみた。「他の多くの人との語りに巻き込まれて、もまれないとダメだということ」と鈴木さんは答えた。「社会学者の言葉は特権化されやすい。それから逃れること、距離をとること」

 論壇の“圏外”とも言えるラジオの場で、鈴木さんは一つの語り方をつかんだと感じた。そこは、言葉がキャッチボールされる場所だった。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内