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「おしん」今も途上国で人気 25年間で放映64カ国に

2008年7月10日

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写真長岡技術科学大准教授のアーシュ・マーラシンハさんは「おしん」があったから日本にいる。手に持つ本は「おしん」のシンポジウムの報告書=新潟県長岡市写真名古屋大大学院国際開発研究科で学ぶイサム・ヤシンさん

 「働ぐごどは、どだなごどでも苦にはならねえっす」。NHKの朝の連続テレビ小説で、歴代最高の視聴率を誇るドラマ「おしん」の放映から今年で25年。貧困、いじめ、夫の自殺……。次々降りかかる辛苦に耐えた女性の生涯の物語は海外でも人気が続く。これまで放送した国・地域は64を数え、なお貸し出し依頼は途切れない。おしんにひかれて日本に来てしまった人もいる。

◆台湾、27回目放送中

 「阿信(アーシン)! 阿信!」

 今年5月、おしんを演じた俳優小林綾子さんは、台湾の台北で方々からそう呼びかけられた。阿信は中国語で「おしん」。訪台の目的は東京・新橋演舞場で演じる舞台「おしん」(7月4日〜27日)のPR。空路、見に来てくれそうなファンが台湾にはいるのだ。

 訪台は5回目の小林さんは「初めて来た時と、熱狂的な雰囲気は全然変わらない」。台湾のテレビで「阿信」は27回目の放送中だそうだ。

 小林さんの訪台の2週間ほど前、中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席が訪日を控えた会見で、日本について「『おしん』の印象が深く残っている」と言い、その精神を「自強不息」(自らつとめ励んでやまない)とたたえた。中国は85年に初めて放送し、90%近い視聴率が出た地域もあった。

 なぜ中国ではトップが言及するほど人気があるのか。早稲田大の非常勤講師で映画研究者の劉文兵(リュウ・ウェンピン)さんは「最初に放送された時期がよかった」と言う。80年代、社会主義の中国は事実上、市場経済へ転換しつつあったが、私企業への偏見は根強かった。そこに現れた「おしん」。貧しい女性が行商し、家族で店を開き身を立てる姿に「人々が市場経済への興味をかき立てられたのでは」と劉さんは考える。

 「おしん」は日本で放送した後の84年に米国、オーストラリア、シンガポール、タイで放送された。以来、放送した国・地域は累計64。アジア、中近東、南米などが目立つ。NHKのドラマでこれに続くのは時代劇「腕におぼえあり」第1部(92年)の26で、大差がある。

 国際交流基金が、途上国へ無償で日本のテレビ番組を貸し出しており、一層の広がりを生んだ。今年度はイエメン、ザンビア、マダガスカル、インドネシアが「おしん」を要望した。アラビア半島のイエメンで、日本のドラマはなじみが薄い。それでもマルワン・A・A・ノーマン駐日大使は「第2次世界大戦後の日本の発展に、国民は興味を持つだろう。若い人は鼓舞される」と期待する。

 「おしん」で日本に興味を持ち、来日した外国人もいる。

 「『おしん』が私の人生の変わり目でした。どうしても日本に行ってみたかった」

 スリランカ人のアーシュ・マーラシンハさん(37)は言う。現在は新潟県の長岡技術科学大の准教授。中学生のころに「おしん」を見た。育った農村には、おしん同様、学校に行けない子どももいた。苦学した母は「私たちみたいに頑張った人が日本にもいた」と感心し、彼自身も耐え忍ぶ姿に感動した。コロンボ大を卒業して来日。福島県の会津大の大学院に進んだ。

 マーラシンハさんはいま、アジア各国語に訳された「おしん」を、自動翻訳の能力向上などに生かす研究にかかわる。各国の放送人らを招き、おしんゆかりの山形県酒田市で「おしんサミット」を開くのが目標だ。

 アフリカのエリトリアで「おしん」を見たイサム・ヤシンさん(28)は、名古屋大大学院の国際開発研究科で学ぶ。母国では日本の水産庁に当たる役所に勤めていた。「貧しかったおしんは、大人になって豊かになった。日本がどのように発展したか、よく分かった」と話す。

 日本大の上滝徹也教授は専門がテレビ文化史。その立場から、途上国のテレビ放送の歩みに、「おしん」人気のヒントを見いだす。

 テレビ文化は米国の影響が強く、途上国も、まず米国の番組を導入する。米国の少年少女が登場するドラマは、物質的な豊かさの中で精神のうっ屈を描く。これは途上国の日常とは隔たりがある。だが「おしん」は――。上滝教授は言う。「『おしん』は貧しい地域で人気が高い。貧しさに耐え、抜け出す努力をする話はそうした国で普遍性があるんです」(大室一也)

 おしん 83年4月〜84年3月にNHKが放送した朝の連続テレビ小説。主役おしんは幼少期が小林綾子、成長して田中裕子、晩年が故・乙羽信子と代わった。橋田寿賀子原作。1901(明治34)年、山形県の小作農の三女に生まれたおしんは、学校に行けずに奉公へ。上京して髪結いをし、魚の行商などを経て、やがてスーパーマーケットの経営に乗り出す。

 視聴率の平均52・6%、最高62・9%は、記録がそろう64年以降では「朝ドラ」で最高の数字(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

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