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地域性より信念 「地方の時代」映像祭 異色作グランプリ

2009年12月1日

写真:「地方の時代」映像祭の贈賞式であいさつする岸本達也さん「地方の時代」映像祭の贈賞式であいさつする岸本達也さん

 地方放送局のドキュメンタリー番組を表彰する第29回「地方の時代」映像祭の贈賞式が、11月に大阪府吹田市であった。地方局のテレビ制作者は地元を意識した番組制作をするのが常だが、今回のグランプリ受賞作は、地域性にとらわれない内容だった。訴えかける力の強さが評価された。

 今回の映像祭は、旧満州開拓団や沖縄戦の「集団自決」といった戦争絡みの作品が目立った。全国のNHKと民放から出品されたのは76本で、グランプリを含む優秀賞6本のうち戦争ものは3本だった。

 地域性の薄さも、今回の特徴だ。「農業や過疎といった地域のなりわいを描いたものが少なかった」。映像祭の審査委員長を務めた作家の森まゆみさんは贈賞式でそう講評した。

 グランプリは戦争もので、さらに地元が出てこない。静岡放送の「SBSスペシャル 日本兵サカイタイゾーの真実――写真の裏に残した言葉」。太平洋戦争の激戦地、硫黄島で捕虜になった日本兵を巡る内容だ。

 「地域に根ざしたものにしようと思えばできた。だが、それだけでは番組として不十分だった」。ディレクターの岸本達也さん(35)は振り返る。

 取材のきっかけは、静岡市在住の男性から見せてもらった日本兵サカイタイゾーの写真。

 調べるうちに東京都出身などと身元がわかり、その人物像にひかれていった。投降した時の状況を求めて米国に飛び、神奈川県や埼玉県にいるサカイの子どもたちにも向き合った。

 番組は、サカイが戦地で何をし、戦後の日本で何を背負ってきたのかをあぶり出した。

 「一本の番組では多くを言えないので、言いたいことを決めて構成を考えていった」

 サカイは画家を志し、仏語を学んでいた。尋問する米兵と仏語を介して意気投合。「日本は戦争に負ける」と思っていて、日本軍の情報を米軍に教えた。裏切り行為とも思えるが、番組の最後で内心の葛藤(かっとう)を暗示する事実が明かされる。

 「自分の子どもたちにもその葛藤を語らず、見せたくない部分を抱えていたことが心に残る」と岸本さんは言う。

 贈賞式で審査委員長の森さんは「ディレクターのにおいがする番組」と称賛した。日本民間放送連盟賞でもテレビ報道部門の最優秀番組に選ばれた。地域性を超えて、風化していく戦争をしっかり記録しよう、という制作者の信念が実を結んだ。(岩本哲生)

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