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好況、置き去りの世代 「偽装請負」担う20〜30代半ば

2006年07月31日08時20分

 一時の海外移転から、国内回帰の動きもみられる大手メーカーの工場。「ものづくり日本の復活」と歓迎される一方で、華やかさとは無縁の労働者の一群がいる。低賃金でクビを切りやすい請負労働者たちだ。バブル経済崩壊後の「失われた10年」に、時には法令違反のかたちで生産体制に組み込まれた。その中心は20〜30代半ばの「ロストジェネレーション(失われた世代)」。景気回復の恩恵にあずかる今の新卒世代と違い、かれらは正社員になることもままならない。

図

労働行政の変化と非正規雇用の推移

◆労働コスト圧縮の柱 国内回帰、ハイテク工場

 「もう当たり前のビジネスモデル。今の新工場っていうのは、大量の請負労働者を使うことを前提に設計しているんです」

 ある大手請負会社幹部が自慢げに説明した。実際、ここ数年で立ち上がったデジタルカメラ、薄型テレビなどの最新鋭工場では、請負労働者が正社員より圧倒的に多い。

 労働政策研究・研修機構の藤本真研究員は「工場で請負の活用が急速に進んだのは90年代後半」と指摘する。中国、韓国をはじめ、製品の安さを武器にしたアジア勢が台頭し、日本メーカーは世界的な競争に巻き込まれた。コスト高の日本で生産していては勝ち残れず、海外に生産拠点を移す動きが加速した。

 しかし、技術流出を避けたい企業は、ハイテク商品の生産では国内回帰の道を選んだ。その際に徹底したのが、労働コストの圧縮だ。正社員の採用を極力抑え、工場での労働力は「アウトソーシング(外部委託)」方式にして、安く調達した。「これなら急な減産時には、いつでも簡単に人員調整できます」(大手メーカー幹部)

◆細く器用な指 需要 地方から地方の工場へ

 外部委託の最たる例が請負労働だ。とくに「偽装請負」という仕組みは、メーカー側が彼らを直接、指揮命令できるという点で好都合だった。「品質を保つには指示も必要で、工場の生産ラインの大半は偽装請負にならざるを得ない」とメーカー関係者は明かす。

 請負の活用は、電機業界の採用を機に爆発的に増えた。自動車などよりも海外との競争が激しい上、製品の寿命も短い。ころころ変わる現場の仕事に順応しやすい請負労働者が大量に必要になった。とくに、細くてよく動く指をもつ若い女性や、重いモノの運搬に耐えられる若い男性をメーカーは欲しがった。

 その要求通り、請負会社は、東北、九州など求人の少ない地方から大量の若者を集めた。地方から都会に出る出稼ぎと違い、彼らの多くは地方から地方へと送り込まれた。そこに最新鋭工場がつくられたからだ。

◆変わる顔、途絶えぬ求人 会社に意見→解雇通告

 象徴的な出来事がある。トヨタ自動車系の部品メーカー、光洋シーリングテクノ(徳島県藍住町)の請負労働者約80人に昨年末、請負会社から事実上のクビ切りにあたる「雇用契約終了通知」が突然送られた。一部が組合をつくって雇用形態が偽装請負であることを指摘し、光洋に正社員として雇うよう申し入れた直後だった。

 労組の中心メンバー、矢部浩史さん(41)は「正社員の半分以下の給料で頑張ってきたのに、問題を追及したら切り捨てられた」と憤る。労働局の指導もあって別の請負会社に移籍し、失業は免れたが、光洋側は正社員登用を拒否したままだ。

 請負労働者の職場では、夜勤や残業に耐えきれず、辞める若者が多い。ある請負会社幹部は「同じ工場に同じ人数を送り込んでいるが、顔ぶれは1年で5〜6回入れ替わっている」という。請負会社の求人が途絶えることはない。

◆年収200万円程度、結婚もままならず 揺らぐ社会基盤

 請負労働者の時給は1000円程度。昇給やボーナスは基本的になく、年収は200万円程度だ。

 ある試算によると、子どもを1人育て上げるのに2000万円かかる。ところが非正規雇用者(請負、派遣、パートなど)の生涯賃金は6000万円程度で、正社員の3分の1。

 子育てどころか結婚さえあきらめている人も多い。

 旧UFJ総合研究所が昨春発表した調査では、25〜39歳の非正規雇用者が正社員になれないことで婚姻数は年間5.8万〜11.6万組減り、毎年生まれる子供の数は13万〜26万人も減少する。

 今年の経済白書は、15〜34歳の非正規雇用者約360万人が、正社員でないことで失う所得は年6.2兆円と試算した。国内総生産(GDP)の1.2%にあたり、今後も年約1%分ずつ失い続ける。

 請負労働者は、非製造業も含めると、200万人を超えるともいわれる。「おそらくこの人たちは、一生浮かび上がれないまま固定化する」と労働局の幹部さえ言う。

 このままだと、社会の基盤さえ揺らぎかねない。

◆キーワード

〈ロストジェネレーション〉

 90年代の就職難の時期に、正社員になれないまま、不安定な生き方を余儀なくされた若者たちを指す。もともとは、青年期に第1次世界大戦の悲惨な現実を目の当たりにしたことで、従来の価値観に幻滅し、生きる意味を見失った米国の若者世代のこと。ヘミングウェーなど20〜30年代に活躍した作家らが代表的。

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