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地方の不満どこへ? 都市と溝深く タイクーデター

2006年09月21日23時11分

 クーデターで追われたタイのタクシン前首相は、歴代政権が軽視してきた貧困対策を売り物に、地方の農村で絶大な支持を受けてきた。21日、東北部の農民らはなおタクシン氏への支持を口にした。政変を経た今、貧困層が抱える不満に新たな受け皿ができるのかどうか先行きは見えない。新政権の対応しだいでは地方と都市部の分裂が、なお増幅される恐れもある。

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タイ東北部の農村地区の女性たちは、タクシン前首相を支持すると話した=21日午後、タイのブソアン村で

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軍の警戒が続く中、市民は普段通り通勤した=21日午前6時54分、バンコクで

 「私が生きながらえられたのは、タクシンさんのおかげなのよ」。タイ東北部のナコーンラーチャシーマー県。水田が一面に広がるブソアン村で、主婦のワンさん(66)がつぶやいた。

 国民のだれもが、30バーツ(約90円)で医療を受けられる。タクシン政権が目玉として打ち出したこの政策は、医者にすら行けなかった農民たちの心をとらえた。妹のアドさん(49)がブタを飼えるようになったのも、前首相が導入した低利融資「村落基金」のおかげだ。

 湖のほとりの食堂にいたヤニサさん(20)も、タクシン氏を今も支持する。「次の首相を軍が選ぶなんて間違っている」。柱にタクシン氏の色あせた写真が張ってあった。

 一族による株取引疑惑をきっかけにバンコクで退陣運動が広がる中、北部や東北部の農民が「貧者のキャラバン」を名乗り、タクシン氏への支持をアピールするためトラクターでバンコクまで駆けつけた。リーダーだったクムタさん(55)は「タクシン氏は貧困撲滅に農民自らを参加させ、我々の目を見開かせてくれた」と振り返った。

 しかし、首都バンコクの市民は冷めた反応が目立つ。21日朝、オフィスビル街の証券会社で株の売買をしていたスチャラットさん(47)は「クーデターは短期的には経済に影響するけど、これで長期的な問題が取り除かれた」と淡々と話した。

 退陣運動をリードしたのは、都市の中間層だった。貧困削減の成果よりも、汚職疑惑や一族への利益誘導疑惑などの「倫理」を問題にした。長い政争を経ても、タクシン氏を支持する農村と都市中間層の溝は最後まで埋まらなかった。

 都市でも貧困層にはタクシン氏の支持者が多い。モーターバイクの運転手たちは、政局の混乱が続く中で同氏支持のデモを繰り返した。以前はマフィアに牛耳られ、場所代を払わなければならなかった状況から前首相が解放してくれたからだという。いつも参加していた運転手(54)は「次の政権が我々のために何かしてくれる保証はない」と話した。

 だが、今は戒厳令下。この運転手は「今は何も言えない。しばらく様子を見たい」とも言う。

 クーデターで全権を握った「民主改革評議会」は「国の統一」を強調するが、タクシン氏の退場はいわば、都市層住民の要求に沿った形。政変を経ても、分裂状態は変わらないままだ。

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