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中国・インドで電子ゴミ急増 PC、プリンタ…世界から

2007年02月04日14時37分

 中国やインドの貧しい農村や大都市の郊外に、壊れたパソコンなどの電子ゴミがあふれている。健康被害を防ぐために、処理現場での安全対策が不可欠だが、目先の利益を求める業者の意識は低い。ゴミの中には、明らかに日本から輸出されたとみられるものもあった。不正防止には、国際的な密輸防止対策の強化が欠かせない。

写真パソコンやプリンター、エアコンなどを、素手で解体する作業員ら=中国広東省の貴嶼村で 
写真パソコンの基板を漬けた硫酸と硝酸の混合液を手袋をしただけの手でかき混ぜる労働者。白く泡立つ手前の容器は刺激臭を発していた=ニューデリーで
写真川の横で、黒い煙をあげて燃えるプラスチックくず=中国広東省の貴嶼村で、小林裕幸撮影

 ■地方で破格の売り上げ

 中国広東省の経済特区、スワトーの市街地から西へ約50キロ離れた貴嶼村には、世界各地から使えなくなったパソコンやプリンターなどの電子ゴミが集まってくる。

 東京都世田谷区の面積にも満たない村のあちこちから黒煙が立ち上る。河原や田畑でプラスチックやビニールが野焼きされていた。村中心部の一角では、パソコンが家々からあふれ出し、道路に積み上げられていた。

 ひらがなキーボードや、表に「通信工事課」「データ消去済」など、日本のシールが張られたパソコンもあった。

 鉄くずなどのリサイクルが主産業だった村に、電子ゴミが入ってきたのは1990年以降だ。

 ゴミとはいえ、状態が良ければ基板などの部品が売れる。壊れたものからも、銅や金など貴金属が取り出せる。一獲千金を狙う業者らが移り住み、村の人口は約30万人に膨れあがった。従業員4、5人の零細企業でも月の売り上げが200万元(約3千万円)になるといい、サラリーマンの月収が1千〜1500元の地元で電子ゴミ処理は破格のビジネスだ。

 一方で、パソコン部品に含まれる鉛や水銀、カドミウムなどの有害物質が大気中に飛散したり、分解の際に使った溶剤が垂れ流されたりすることによる住民の健康被害も深刻だ。スワトー大学医学部の03年末から04年の住民健康調査によると、1歳から6歳までの子供165人のうち、135人が鉛中毒だった。

 ■有害物質、薄い危機意識

 インド最大の電子廃棄物処理業が集積するニューデリー周辺も、処理作業関係者の健康被害が心配だ。同市北東部のガッダ地区の小さな作業場では、10人ほどがマスクもせずに基板から銅を取り出す作業をしていた。

 パソコンの基板を熱湯に入れた後、布でこすって余分な成分を落とし、硫酸と硝酸の混合液の入った容器に入れる。1日漬けると、基板から銅が分離する。銅は1キロ300ルピー(約820円)で売れる。

 刺激臭がする中で、労働者たちは普段着姿のままゴム手袋を着けたり、着けなかったり。少年の姿もあった。ラジェシュ君(10)は1カ月前、東部のビハール州から出てきたという。

 マウラナアザド医科大・職業環境健康センター(ニューデリー)のジョシ所長は、有毒な水銀や鉛、カドミウムを吸い込むことで、脳や内臓に与える影響を懸念する。

 「電子ゴミ処理が始まったのは3、4年前。今後、多様な症状で治療の難しい事態が予想される。知的発達段階の子供の脳への影響は深刻だ。労働者の服に付いた物質を家庭で妊婦が吸えば、奇形児の心配もある」

 だが、作業場に危機意識はない。ニューデリーのNGO「トクシックス(毒物)・リンク」によると、こうした作業場で働いている計1万〜1万5千人は、地方出身の移動労働者がほとんどで、日給はわずか50ルピー程度。経営者も対策の必要性を感じていないという。

 ■国際的な対策急務

 電子ゴミについては、有害廃棄物を規制するバーゼル条約で輸入国の同意がない限り、輸出できない。しかし、実際は「中古パソコン」「混合金属」などとして取引されている。

 中国のリサイクル業者によると、輸出元は欧米や日本、タイやオーストラリアなどで、船でいったん香港に運ばれる。香港には複数の密輸業者がいて、輸入元になる。書類上は、中古品やくず鉄など別の品目で正規の輸入手続きをするが、業者と税関とは裏で結びついているため、中身を調べられることはない。その後、再び船で中国本土に運ばれるが、税関の検査はないという。

 インドでも欧米から入ってきた電子ゴミが02年から増え、現在、年間推定約5万トンにもなる。インド環境森林省は昨年、規制法案の準備を始めたが、国内の電子ゴミがさらに年間15万トンと推計され、経済成長を背景に増加が懸念されている。

 電子ゴミの実態をつかむのは難しいが、米国の非政府組織(NGO)「バーゼル・アクション・ネットワーク」などは、米国のパソコン廃棄事情などを元に、アジアの電子ゴミは、米国からの輸出分だけで計約1千万トンと見積もっている。

 国際社会の懸念も高まっている。昨年11月にナイロビであったバーゼル条約の締約国会議では、各国が不法輸出防止、環境や健康に配慮した管理対策、法整備などを進める内容を盛り込んだ「ナイロビ宣言」を採択した。

 しかし、輸出規制を巡ってバーゼル条約締約国の足並みはそろわず、95年の締約国会議で先進国から途上国への有害廃棄物の輸出を全面禁止する条約改正は採択されたものの、発効していない。発効に必要な批准国数をめぐって合意ができないためだ。

 日本は批准していないため、環境団体から「米国、オーストラリアなどとともに、禁止条約の発効を遅らせようとしている」と批判されている。

 〈バーゼル条約〉 有害廃棄物の越境移動と処分を規制した国際条約。有害廃棄物の輸出をする場合に輸入国の書面による同意が必要なことや、不法に輸出した場合の再輸入の義務などを規定している。92年に発効、現在の締約国は中国、インドを含め168カ国と1機関(欧州委員会)。日本は93年に加入した。

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