現在位置:asahi.com>ニュース特集>地球環境> 記事 先進国の有毒産廃、途上国へ 「エコマフィア」密輸横行2007年03月07日19時17分 西アフリカのコートジボワールで昨夏、欧州から持ち込まれた有毒産業廃棄物が経済の中心都市アビジャンのあちこちに捨てられ、15人が死亡、10万人が吐き気や頭痛を訴えて病院に駆け込む事件が起きた。汚染された土壌は今も残り、異臭が鼻をつく。環境規制で処分費用が上昇し、有害廃棄物が先進国から取り締まり体制の弱い途上国に向かう構図が見える。(アビジャン〈コートジボワール〉=大野良祐)
●コートジボワールで放置、15人死亡・10万人病院へ 「ほら」。農業を営むアレ・ヤオさん(55)が南を向き鼻をひくひくさせた。アビジャン西部。赤茶けた土ぼこりが立つ草原に集落が点在する。卵が腐ったようなにおいに、鼻腔を刺す刺激がある。「早起きした朝や雨の日、今もにおうんだ」 昨年9月上旬の夜、刺激臭で目も開けていられなくなった。臭気は朝になっても去らず、親族を含む一家15人の半数がひどい頭痛や吐き気、下痢で診療所に駆け込んだ。 稼ぎ頭のおい、ジャンジャックさん(当時30)は「気分が悪い」と言いながら連日、建設現場の仕事に出かけた。有毒廃棄物がぶちまけられたごみ埋め立て地から300メートルほどの所だった。6日後の明け方、風呂場で鼻血を流して死んでいた。 アビジャンの街はパニック状態になった。市中心部を囲むように、半径15キロほどの16カ所にどす黒い液体が捨てられていた。道路わきの茂み、下に小川が流れる斜面、近隣の人たちのごみ集積場所……ところ構わずだった。市内の病院は押し合いへし合いになった。 コートジボワール当局の調べでは、液体から出るガスには硫化水素やメルカプタンの悪臭物質、毒性の高い有機塩素が含まれていた。石油系廃液とみられ、8月半ばにアビジャン港に入ったオランダの石油・金属商社トラフィギュラがチャーターしたパナマ船籍のプロボコアラ号から、地元の廃棄物処理会社が用意した複数のタンク車に移し替えて捨てられた。 廃液は約400トンだったが、土壌を汚染した。環境回復の支援を始めた国連環境計画(UNEP)は当初、汚染土壌を約5千トンと試算したが、処理を請け負ったフランス企業が9200トンを除去した後もまだ4千トン近くを取り除く必要があるとわかった。だが、資金の手当てがつかず、除去作業は行われていない。 作業に立ち会った土木会社の現場監督は「汚れた土を運び出し終わったことになっていても、周りを少し掘れば黒い廃液が染み込んだ土が出てくる。立ち入り禁止の縄を張るぐらいしか打つ手がない」と話した。 5月には本格的な雨期に入る。地中に浸透した廃液がどんな影響をもたらすかはわからない。監視体制も整っていない。
●処理費高い欧州から コートジボワール政府の調査委員会報告書や関係者の証言によると、アビジャンに廃棄物が持ち込まれた経緯はこうだ。 プロボコアラ号は昨年6月、ジブラルタル海峡付近に停泊。その後、アムステルダム港に移動し、廃液処分のため荷下ろしを試みるが、港湾当局の試料検査で特殊な焼却処分が必要とわかる。費用も高く、断念した。 廃液については、タンク内を化学薬剤などで洗浄した際に出たものに加え、欧州各地から持ち込まれた「有毒廃液のカクテル」の処分を引き受けていたとの見方もある。 同号は結局、廃液を積んだままガソリンをエストニアからナイジェリアに運ぶ通常の業務につくが、航行中の7月から8月にかけてナイジェリア、セネガル、コートジボワールの業者に廃液の引き受けを打診。アビジャン在住のナイジェリア人が請け負ったという。 実際に不法投棄した廃棄物処理会社、トミー社はプロボコアラ号の入港直前に設立され、港湾当局が異例の速さで廃液の取り扱い許可を出した。バグボ大統領周辺と関係が深かったとの報道もあったが、真相は不明だ。 トラフィギュラ側は、アビジャンに適正な処理施設がなく、トミー社に処分能力はないとの認識はあったようだ。「投棄場所を見つけた。大丈夫だ」というトミー社の電子メールが残っている。オランダなら33万ドル(約3800万円)かかるところを、1千万CFAフラン(約234万円)で請け負っていた。 トラフィギュラ側は「地元の認可業者に処分を委託しただけだ」と責任を認めていないが、2月13日、環境回復などのため約2億ドル(約232億円)を支払うことでコートジボワール政府と合意。政府が同社を訴えないことも合意に含まれ、事件の幕引きが近い。 UNEPアフリカ地域事務所のセコウ・トウレ部長は「有害産廃を安く処理したい先進国の企業と、適当に処分して利益を上げたい途上国の業者の思惑が一致した典型的な事件だ」と話す。 ヤオさんは「詳しいことは政府も教えてくれないが、あの黒い液体は私たちの物ではないことだけははっきりしている。持って帰ってくれ」と吐き捨てるように言った。
●「エコマフィア」の密輸・処分が横行 ジュネーブのバーゼル条約事務局が加盟国・機関の報告を基にまとめた資料では、越境する世界の廃棄物は約850万トン(01年)。統計をとり始めた93年の4倍に増加。9割以上が「有害廃棄物」と推定されている。 統計に表れる先進国から途上国への廃棄物輸出量は年によって変動があり、数十万〜100万トン程度。これは「合法」の輸出だ。事務局は「違法な移動を把握するのは困難」というが、途上国への密輸は「隆盛期」と分析する。麻薬や武器の密輸にかかわる国際犯罪組織がネットワークを利用して廃棄物の密輸・処分に乗り出しているのがその理由という。「エコマフィア」と呼ばれる。 有害廃棄物が違法に持ち込まれている主な国には、中国、ベトナム、インドネシア、フィリピン、インド、ナイジェリア、コートジボワール、セネガルなどがある。
〈キーワード・バーゼル条約> 有害廃棄物の国際的な移動や処分を規制する条約。89年に採択され、92年発効。コートジボワールを含め169カ国・機関が加盟する。80年代、イタリアやノルウェーからポリ塩化ビフェニール(PCB)を含む廃棄物の変圧器が大量にナイジェリアに捨てられたココ事件(88年)など、先進国から輸出された有害廃棄物が途上国の環境を破壊する事件が多発したことをきっかけにつくられた。 PR情報 |