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消費者パワーで環境汚染防げ 中国NGO「緑色の選択」

2007年03月11日15時43分

 経済成長に伴う環境破壊が深刻化する中国で、消費者パワーを使って環境対策に取り組もうとするNGO(非政府組織)があります。汚染企業に圧力をかけるため、その企業の製品の購入をやめようと呼びかける「緑色の選択」という活動を、今月下旬にも始めます。環境より雇用や税収を優先する地方政府が多く、公害の拡大に歯止めがかからない中国で、「草の根組織」の声はどこまで届くでしょうか。(北京=吉岡桂子)

写真えたいの知れない浮遊物が次々と流れる白河。ヘドロがたまり、川底は沼のようになっている=中国湖北省で 
写真馬軍さん=北京市内で 

●企業名を公表・不買運動も

 「中国に汚染をまき散らす企業の製品を買うのはやめよう。市場経済のなかでは、消費者は自分の力で、中国の環境を改善できるのです」

 北京の環境NGO「公衆と環境研究センター」の代表、馬軍さん(38)が力強く呼びかけた。聞き手は、中国の約20都市から集まった60人近い記者やNGOのメンバーたちだ。

 広東省広州市で1月下旬に開かれた「環境情報の公開」をめぐる交流会でのひとこまだ。北京のNGOなどが主催し、スポンサーである米国の環境保護団体も出席した。

 同センターは06年秋、政府から環境基準違反を指摘された企業の名前や具体的な違反内容などを示すホームページ「中国水汚染地図」(www.ipe.org.cn)を開いた。データは04年から06年まで。政府の公開情報を中心に、メディアの報道などを拾った。

 所在地・重慶市 企業名・重慶長寿化工 違反内容・違法廃水汚染 摘発時期、機関・06年6月、市政府弁公室

 所在地・北京市通州区 企業名・永順之舟食品 違反内容・基準を超えて廃水、汚泥の処理も不適切 摘発時期、機関・06年8月、市環境保護総局

 地図をクリックするだけで、こうした情報が手に入る。水質汚染だけで5千社近くが違反企業に名を連ね、ほぼ70社は外資系企業。約20社の日系も含む。水汚染に続き、大気汚染の企業リストも作成中だ。

 馬さんは大学卒業後、改革開放政策が本格化した90年代前半に、北京で香港紙のスタッフとして働き、中国の水汚染問題に関心を強めた。著書「中国水危機」は英訳もされ、米国の大学に招かれて環境問題を研究する機会も得た。06年には米誌タイムで温家宝(ウェン・チアパオ)首相と並んで、「世界に影響を与える100人」に選ばれた。

 同センターは、環境基準に違反する企業の製品をボイコットする「緑色の選択」運動を、各地のNGOや環境記者らと協力して、3月下旬にも本格化させる。スーパーなど小売店にも、公害企業の商品は仕入れないよう呼びかける考えだ。

●外資も厳しく監視

 「公衆と環境研究センター」は、外資企業に厳しい目を向ける。馬さんは「国際的に活躍する企業は、ブランド力から来る高い信用に基づいて商売している。環境を破壊する行動は、その信用を砕くことに気づいてほしい」と指摘する。

 違反企業の名簿には、上海に電池工場を持つ松下電器産業グループも名を連ねる。乾電池を保管するトレーの洗浄水を、処理装置を通さずに排出したことが、環境基準に違反すると指摘された。

 松下電池工業の広報担当者によると、公表された違反事例は事実だが、臨時作業中のミスであり、それ以降は改善したとしている。リストに含まれる他の日系企業も「一時的な現象で、すでに改善し、その後は問題ない」(スズキ、花王)、「指摘された工場には14%の資本参加のみ」(日清食品)などと、それぞれ言い分があるようだ。「緑色の選択」の対象になる前に「NGO側にきちんと事情を説明したい」(松下電池)とする企業も多い。

 こうした求めに、馬さんは「企業から説明があれば、喜んで聞きたい」と前向きに対応する姿勢も強調する。

 全国で公害が深刻化するなか、中国国家環境保護総局は06年、約2万8千件の違法行為を摘発し、3176社の工場を閉鎖した。中央政府の厳しい姿勢とは対照的に、成長優先を捨てられない地方政府には環境対策に非協力的な態度も目立つ。業を煮やした中央政府が「NGOやメディアの力を借りて、環境を改善しようとしている」(あるNGO代表)ともみられている。

 同センターには、外国の企業や大使館員も足を運ぶ。日本政府の関係者には「中国で環境重視の姿勢が広がることは、環境技術に優れた日本企業にとってはプラスにもなりうる」と、期待する声もある。

 〈キーワード・中国の環境問題と産業政策〉中国政府は2010年までの5年間で、主な有害物質の排出量を10%減らす目標を掲げている。しかし、06年の実績は、二酸化硫黄は1・8%、水質汚染の目安となる化学的酸素要求量(COD)は1・2%、それぞれ増加した。国土の3割で酸性雨が降り、3億人の農民が安全でない水を飲む。環境を理由にした暴動は、前年比3割増の勢いで広がっているという。

 中国政府は07年、環境破壊への取り締まりを強化するとともに、改善につながる設備投資などに財政的な優遇を与える方針だ。外資系企業に対しても、環境破壊をもたらす投資には制限を強める。

 〈記者の視点〉馬さんたちの活動には公表データを確認せずに使う粗っぽさもある。しかし、企業に環境責任を求める運動が中国でも始まったことは印象的だ。公害の広がりを思えば当然ともいえる。中国への進出企業は政府とだけではなく、市民団体との対話も求められる時代になった。

 環境への配慮にかかる費用の安さを勘定に入れて進出した一部の企業には、厳しい情勢かもしれない。ただ、環境対応では優位性を持つ日本企業は多いだけに、こうした変化を「追い風」とするように期待する。

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