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新エネルギー覇権争い〈環境元年 エコ・ウオーズ:8〉

2008年2月6日16時58分

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グラフ増える世界の代替エネルギー ※写真をクリックすると拡大します 写真オランダと英国から視察に来たバイヤーを、ジャトロファ畑に案内するESVバイオアフリカ社長のレニエ・ファンロイエンさん(中央)=モザンビーク・インハスーネ村で写真サッカー場ほどの大きさの露天風呂「ブルーラグーン」。後方で地熱発電所が白煙を上げる=アイスランド・レイキャビク郊外で地図地図地図地図

 気候変動を抑えるためには、石油などの化石燃料に頼らず、地球がその営みの中で持続的に生み出すことができる自然エネルギーへの移行を急がねばならない。代替エネルギーを作りだす「ポスト中東」の座はどこか。世界は「新エネルギー・ウオーズ」に走り出している。

 ●燃料作物か食糧か、論争 アフリカ、めざすはバイオ大陸

 アフリカ・モザンビークの首都マプトから北東へ420キロ。青空の下、深緑の列が地平線まで続いていた。

 インハスーネ村に新しくできたジャトロファと呼ばれる木の農場だ。ピンポン球ほどの実が黄色く熟すと収穫期で、種を搾って採れる油からバイオ燃料のバイオディーゼルができる。

 英国資本を基盤にした「ESVバイオアフリカ」社が、放置されていた農地にジャトロファの苗を植えたのは06年末。綿花プランテーションが十数年前に廃れた後、多くの若者たちが村を出て行ったが、ジャトロファ農場ができて人口は1600人から倍増した。

 同社は近く搾油工場建設に取りかかり、09年には油を出荷する。バイヤーが有力市場とみるのは「10年に運輸燃料の5・75%をバイオ燃料にする」と宣言した欧州連合(EU)諸国だ。

 バイオ燃料作物のブームが今、アフリカ大陸を覆う。モザンビークでは現在の農地を上回る計500万ヘクタールの計画がある。ザンビア、アンゴラ、タンザニアなどで、外貨獲得や貧困解消を掲げたプロジェクトが進む。

 南アフリカ中部の町ボアタビルにある「エタノールアフリカ」社は、農家などの出資で04年に設立された。現地産トウモロコシを原料にバイオ燃料を作る計画で、06年に建設を始めた工場は大陸初の商業的エタノール工場になるはずだった。

 ところが――。

 07年12月6日、南ア政府は「トウモロコシを原料とするエタノール生産は禁止」と発表した。政府がまとめたバイオ燃料戦略草案に対し、食用作物のトウモロコシが原料に想定されていることに不安が上がり、閣僚からも価格高騰の懸念が出たためだ。

 トウモロコシ粉を水で煮たものが南部アフリカの主食。貧困層の食卓には欠かせない。鉱物エネルギー省中央エネルギー基金の担当者は「今後検討の余地はあるが、論争になりそうな作物は外した」と説明する。

 同社に出資した農家のロバート・ケイウッドさん(37)は「余ったトウモロコシだけをバイオ燃料に回すつもりだったのに」と困惑。ボアタビルの工場は建設が中断されたままだ。

 バイオ燃料の生産には農作物や農地を使うため、食糧が不足するアフリカでは「食糧」対「燃料」の論争が起きる。

 非食用のジャトロファが推奨されているモザンビークでも、政府は食糧生産維持のため、食用の農地をバイオ燃料作物に転換することを原則禁止した。しかし、全国小規模農家組合のアントニオ・ポベラさんは「貧しい農家は、自分が食べるものより現金作物に飛びつきがちだ」と心配する。

 一方、バイオ燃料作物ブームは道路や貯蔵・灌漑(かんがい)施設などへの投資を促進し、食糧増産の鍵にもなると、両立を期待する業界関係者もいる。

 アフリカで食糧安全保障の活動に携わるNGO「RHVP」のジョン・ルークさんは言う。「バイオ燃料は、アフリカ諸国にとって『祝福』にも『呪い』にもなりうる」

 ●滞る技術開発、実現に壁 アイスランド、水素立国なるか

 雪に覆われた溶岩台地を貫く道の先に、白煙が立ち上るのが見えた。アイスランドの首都レイキャビクから車を走らせること45分。地熱発電所がくみ上げた温水の余りを利用した巨大露天風呂、ブルーラグーンだ。

 北極圏に接する人口約30万人の島国は、「火山と氷河の国」と呼ばれ、豊富な地熱と水力で電力の99%をまかなう。自動車に使うガソリンなどを含めたエネルギー全体でも、自然エネルギーが7割以上を占める。

 この世界最先端の「低炭素社会」が、さらなる未来をめざしている。

 自然が生み出す電力を使い、水を電気分解して水素を生産する。水素を空中の酸素と反応させ電気を発生させる燃料電池を導入し、国内のすべての自動車を燃料電池車に転換。2050年には化石燃料に一切頼らない「水素社会」をめざす。水素を簡単に輸送する技術ができれば、エネルギー輸出国にもなれる。

 政府も出資するエネルギー会社のほか旧ダイムラークライスラーやシェルなどが合同で、99年にアイスランド新エネルギー(INE)社を設立。03年にはレイキャビクにあるシェルのガソリンスタンドに併設して、水素ステーションをつくった。同じ年に水素バスも導入した。

 世界から視察が相次ぐ「壮大な実験」。だが現実は、足踏み状態だ。

 燃料電池車の技術開発は日本やドイツのメーカー頼りだが、その歩みは思ったほど速くない。結果、値段が高くて普及が進まない。07年から水素バスの運行も休止。効率のよい水素の貯蔵や輸送方法の開発も滞る。

 INE社のスクラーソン社長(40)は「水素社会の実現のためには、技術とコスト面でのブレークスルーが必要だ」と話す。

 一方で、クリーンで安価な電力を求める海外からの投資は急増している。電力を大量に使うアルミ工場が米国などから進出。やはり電力消費が大きいIT企業のサーバー設置など、進出希望は後を絶たない。水素社会実現の手前で、「エネルギー立国」の道は開けつつある。

 水素経済社会を提唱したアイスランド大学のアーナソン教授(72)は、こう予言する。「石油生産は近くピークに達し、化石燃料に依存した経済構造は転換せざるを得なくなる。ここが先駆けとなり、今世紀中には世界が水素経済に移行するだろう」

 同国では08年中には新たな水素バスを走らせ、2カ所目のステーションを新設する。水素エネルギーを活用した旅客船も就航させる予定だ。

 小国の挑戦は続く。

 ◆日本、原発依存のまま 米・独・ブラジルがリード

 バイオエタノール燃料では、米国とブラジルが「2強」だ。06年の世界生産量のうち、トウモロコシからつくる米国が39%、サトウキビからのブラジルが35%。ブラジルは広大な畑を武器に「21世紀の中東」を狙う。

 自然エネルギー全体ではEU、とりわけドイツが世界を牽引(けんいん)する。ドイツの強みは、自然エネルギーで発電した電気を電力会社が高い価格で買い取る制度があること。企業や住民は安心して投資できるのだ。

 技術開発を競い、政策が後押しし、市場獲得をめざす――。各国が新エネルギーの覇権争いを繰り広げる中、日本はどうなのか。

 風力発電は、04年の世界8位から06年は13位と後退。風力発電の適地はまだ多いが、最近は企業が発電所を計画しても、電力会社が不安定さを理由に受け入れを渋る。長い間トップを走ってきた太陽光発電でもドイツに05年に抜かれた。日本は太陽光発電施設への補助を05年度で打ち切るなど、自然エネルギーでは消極的な姿勢が目立つ。

 背景には、日本がこれまで脱化石燃料として原子力に頼ってきたことがある。世界3位の55基の原発を持ち、発電量の三十数%をまかなう規模にまでなっている。

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