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社保庁、年金「裏マニュアル」 特別便、訂正できぬ人も

2008年01月21日09時28分

 「宙に浮いた年金記録」の持ち主を捜す「ねんきん特別便」をめぐり、社会保険庁が窓口を訪れた人に記録漏れの特定につながる助言をしないよう社会保険事務所に求めるマニュアルを作成していたことがわかった。窓口対応の手引を補足する「裏マニュアル」とも呼ばれ、「過去の勤め先を思い出せない人に事業所名の頭文字は教えない」などと厳格な内容。他人の記録の持ち主になりすます不正を防ぐためだが、厳しすぎて記録の回復が進まない一因になっているとみられる。

 ねんきん特別便は昨年12月末までに、記録漏れの可能性が高い人を対象に48万人分が送られたが、記録を訂正できた年金受給者は約2万人にとどまる。年金受給者は記録の訂正のために社会保険事務所に行き、本人の証拠書類や記憶に基づいて手続きをする必要がある。訂正が進まない理由のひとつに、この「マニュアル」の存在があるとみられ、社保庁は内容の見直しを検討している。

 社保庁によると、同庁は昨年12月14日、全国312の社保事務所と各自治体に対し、「私と同じ氏名や生年月日の記録を教えてほしい」などのあいまいな相談に応じないとする「相談対応Q&A」を送付。その3日後、ねんきん特別便の発送を始めた。

 ところが同18日、年金加入記録の確認に必要な事業所名▽雇用期間▽所在地――の3点に関し、窓口の社保事務所向けに別のマニュアルを送付。「最初の一文字を告げて『○から始まりませんか』などの誘導はしない」「『○○市の事業所』と告げるのは不可」などと対応の徹底を求めた。このマニュアルは一般に公開していない。

 窓口では過去の勤め先を思い出せなかった高齢の年金受給者が訂正できず、記録を統合できないケースが相次いでいる。

 同庁年金相談推進室は「他人の記録の可能性があり、ヒントは教えてはいけないということを徹底するために作成した」としている。

■50年前の社名「思い出してもらわんとね」

 暮れも押し迫った昨年12月27日。大阪府吹田市の吹田社会保険事務所を訪れた無職男性(67)は職員に詰め寄った。「50年も前の話やで。会社名も社長も覚えとらん。殺生や」。だが、職員から「思い出してもらわんとね」と突き放された。

 1950年代半ば、宮崎県から集団就職し、約5年間勤めた会社のことが記録から漏れていた。会社が奈良県内にあったのは覚えているが、その後、転職を重ねており、どうしても社名が思い出せない。職員から社長の氏名も尋ねられたが、半世紀前の記憶が残っているはずもない。

 「同僚も死んだり、連絡先がわからなかったりで、手がかりすらない。ヒントぐらい教えてくれてもいいのに……」。男性は肩を落として社保事務所を後にした。

 窓口で困り果てる相談者が多いため、このマニュアルに反した対応を取る職員もいる。大阪府内のある社保事務所の職員は珍しい氏名など「なりすまし」の疑いが低いと判断すれば、手元の資料などを見ながら「○○に勤めていましたね」と告げているという。

 別の職員は「転職などで社員名簿や給与明細書といった資料が残っていない人も多い。同じ日に生まれた同姓同名の人はめったにおらず、ヒントにわざと間違いを入れるなどすれば、『なりすまし』も見破れる」と言い切る。受給者に冷たいマニュアルへの批判も現場に強い。

 井上英夫・金沢大教授(福祉政策論)は「一連の問題の被害者の受給者に社保庁が立証責任を求めるのは本末転倒。これでは記録は永遠に統合できない」と指摘する。

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