主婦が年金の返納を求められる例
「宙に浮いた年金記録」の統合で、受け取った年金の返納義務が生じる例が複数起きていることが、社会保険事務所職員の証言などでわかった。本人が知らないままパート中に厚生年金に加入していた専業主婦や、障害者らで該当することがある。だが、すでに受け取った年金を返させる異例の事態なのに、対応は社保事務所の窓口の裁量に任されているのが実情で、統合を見送るケースも出ている。
社会保険庁は「ねんきん特別便」の発送に伴い2月8日付で各地の社保事務所に出した通知で、「記録統合に伴い年金が減額となる場合には、さかのぼってお返ししていただく旨、丁寧に説明すること」と明記。返納の発生を認識しているが、「件数は把握できていない」という。
代表的な例は、短期間のパートなどで厚生年金に加入した経験をもつ専業主婦らだ。
サラリーマンの配偶者は、国民年金の「3号」被保険者(加入者)に区分され、保険料を自分で払わなくても払ったとみなされる。だが、パート勤務で厚生年金に入れば国民年金から抜け、退職後に「3号」に戻るには再加入手続きが必要で、02年まで本人の届け出が義務付けられていた。
返納が起きるのは、宙に浮いた厚生年金の記録を統合する時だ。多くは厚生年金に入った認識がなく退職後に国民年金の再加入手続きをしていないため、「空白」(未納期間)が生じることになってしまう。空白分は減額の対象になるので、すでに受給していた人は返納を求められることになる。
3号から抜けた認識がなく再加入を届け出なかったケースについて、厚生労働省は法律を改正し、05年4月からは「届け出をした時点で、その後もらう年金は空白を解消した金額をもらえる」とした。この時点で41万人が救済された。
だが、届け出前にもらっていた年金については「空白の解消をしない」と制限をつけた。
この規定のため、年金を受け取っていた人に新たな空白が見つかったケースで、今回の返納の義務が生じた。空白を解消しようと届け出ても、すでに受け取った年金分については解消できない。このため減額され、受け取り済み分との差額は返納義務が生じる。
2月、70代のある女性が関西の社保事務所を訪問。新たに見つかった厚生年金記録を職員から示され、「これを統合してしまうと100万円近い返納が必要になる。やめた方がいい」と説明され、手続きをせずに立ち去ったという。本人の申し出がなければ記録の統合はできない。
中部地方の社保事務所でも同様のケースが発覚したが、記録を統合しなかったことを現役職員が認めた。
記録統合で年金が減額される例は他にもある。例えば、障害・遺族厚生年金などだ。厚生年金の受給額は全加入期間の月収の平均額(平均標準報酬月額)をもとに決めるため、低い月収の記録が見つかると平均額が押し下げられるからだ。
社保庁は「記録の統合で減額・返納になった事例の件数は把握できていないが、複数確認されている」としている。