報道陣の質問に答える「魚秀」の中谷彰宏社長(左)ら=25日午前11時、徳島市南沖洲1丁目の魚秀徳島営業所、高橋雄大撮影
中国産ウナギを「三河一色産」と偽って販売していたとして、農林水産省から改善を指示された神港魚類(神戸市)は25日、同社の担当課長(40)が、納入元の魚秀(うおひで)(大阪市)側から偽装の「口止め料」として現金1千万円を渡されていたことを明らかにした。両社の取引の間に介在していた協力会社が「手数料」を受け取っていたことも判明。いずれも偽装の発覚を防ぐための隠蔽(いんぺい)工作だったとみられる。
25日夕に記者会見した神港魚類の川口道人取締役らによると、取引の担当課長は5月27日午後、魚秀の中谷彰宏社長から呼び出され、神戸市内の喫茶店で面会した。雑談後、「おみやげ」と言われ、中国産のお茶1袋を渡された。帰宅後、袋を開けたところ現金1千万円が入っていたという。課長はすぐ中谷社長に電話をかけ、返却を申し入れたが、「いいですから。持っといて」と拒まれ、家に保管していたという。
このころ、すでに課長は神戸市中央卸売市場内の取引先から「ウナギの産地がおかしいのではないか」と指摘されており、魚秀の産地偽装を確信し、「口止め料」との認識を持っていたという。
農水省は6月初旬、神港魚類が偽装ウナギを販売した卸・小売業者への立ち入り調査を始めた。これを受け、課長は10日、中谷社長ら魚秀幹部に徳島市内の居酒屋に呼び出され、隠蔽工作を持ちかけられた。課長は「怖くて話には加わらなかった」としている。
同省は12日、魚秀と神港魚類への調査に入った。翌13日、課長は中谷社長らと神戸市内のホテルで面会した。魚秀幹部が課長を首謀者とする農水省への報告案を示し、「1億円出すから責任をかぶってくれ」と迫ったが、課長は断ったという。課長が上司に現金授受などを報告したのは、農水省の調査最終日の18日。課長は「大変な事件に巻き込まれ、怖くなって言えなかった」と説明したという。
課長は、こうした現金授受や魚秀とのやりとりを上司に報告していなかった。このため、神港魚類は「農林水産省の立ち入り調査を受けた12日になって初めて産地偽装を知った」としている。担当課長が偽装を確信した5月下旬以降も一色産として販売していたことを認めた上で「社としての偽装への関与はなかったと考えている」と釈明した。
魚秀の中谷社長は、神港魚類の課長に1千万円を渡した件について「偽装したウナギを売ってもらうための報奨金。リベートのようなものだ」。また、1億円を払う話については「農水省が調べているという情報が耳に入っていたので、切羽詰まって言ってしまったことだ。隠蔽の意図はなく、そもそも1億円を払う能力はない。ばれた段階で正直に話すつもりだった」と話している。
■偽装協力2社に「手数料」4300万円
魚秀と神港魚類の間に入って、実際にはウナギを扱わずに取引伝票を発行して偽装に協力した2社が、神港魚類がウナギの仕入れ代金として支払った約7億7千万円の中から、「手数料」名目で計約4千万円を受け取っていたことが農林水産省の調べでわかった。魚秀側には、入金記録が残らないように4回に分けて、現金で手渡されていた。
同省の調べでは、協力企業2社はともに東京都にあり、偽装に協力する見返りとして、1社には1キロにつき150円、個人経営の別の1社には同20円が支払われていた。神港魚類が魚秀から仕入れた偽装ウナギは256トンに上り、150円の社には約3500万円、個人経営者には約500万円が支払われたとされる。偽装ウナギは実際には魚秀から神港魚類に直接、流れていたが、2社が間に入ることで取引を複雑化して、偽装の発覚を逃れようとしたとみられる。
神港魚類から魚秀への商品の代金は取引伝票を逆にたどる形で、まず手数料150円の協力企業の銀行口座に計7億7千万円を神港魚類が振り込み、その協力企業が手数料分を差し引いた額を、もう1社の個人経営者の口座に振り込んでいた。しかし、魚秀が商品に製造者として記した「一色フード」は実在しない架空会社で口座はなく、協力企業が現金化したうえで、魚秀側に手渡していた。
4回の現金の受け渡しのうち5月中旬の1回では、協力企業2社と魚秀の関係者が都内で1台の車に落ち合い、ボストンバッグに詰めた億単位の現金を車内で授受していたという。
現金の受け渡しの数日後に、魚秀は、実在しない架空の会社「一色フード」の偽の代表取締役名で、協力企業1社に領収書を送付していた。協力企業から魚秀の口座に振り込めば、架空会社の背後に魚秀の存在があることがすぐに発覚することから、農水省は、魚秀が偽装が発覚して自社に責任が及ぶのを避けるために取引を複雑化したうえで、現金の手渡しを協力企業に求めたものとみている。