地球温暖化を防ぐ京都議定書は12年で期限が切れる。「ポスト京都」の枠組みづくりをめざす第15回締約国会議は来年末、デンマークで開催される。
今年3月末。そのデンマークで野心的な新事業が発表された。「風力発電で電気自動車を走らせ、CO2排出ゼロの車社会をめざす」。米国のベンチャー企業「ベタープレース」が地元の電力会社と手を結び、国内で電気自動車を普及させるというのだ。
発表の場を提供したのは、シンクタンク「コペンハーゲン気候評議会」(CCC)だ。環境と経済で一挙両得を目指す「新産業革命」を提唱しており、メンバーである両社の試みはその実例として紹介された。
「地球温暖化を防ぐには、政策決定者、ビジネス界、科学者などが刺激し合って、新たな産業革命を促す必要がある」。CCC代表のエリク・ラスムセン氏は強調する。
環境、経済のいずれも犠牲にせず、プラスを生む政策や企業経営、生活様式――「環境成長経済」とも言うべき視点を忘れてならないのは、気候変動問題だけではない。生物多様性の保全、水資源の確保などにも通じる。
朝日新聞社が主催する地球環境シンポジウムは、こうした視点をもとに論議を深める。第1日は気候変動問題が主テーマだ。翌日は気候変動問題についてさらに議論を重ねた後、生物多様性、アジアの水問題を討論する。(論説委員・吉田文彦)
■主な論点
【気候変動】7月に洞爺湖で開く主要国首脳会議(G8サミット)では、温暖化防止が主要議題となる。なぜ今、対策を急ぐ必要があるのか。「低炭素社会」に向けた技術革新が不可欠だが、環境ビジネスをどのように伸ばし、技術の普及を促すか。
「ポスト京都」ではどんな国際合意が不可欠か。先進諸国だけでなく、中国、インドなどの新興経済国を組み入れる道筋も考える必要がある。
【生物多様性】生物多様性条約では、森林や湿地などの保全、絶滅が心配される種の保護、遺伝子資源の保存など様々な対策が求められている。どのような優先順位で、いつまでに何を実行すべきなのか。
多くの野生生物は途上国に生息する。どのようなビジネスを進めれば、乱獲、乱開発を防ぎながら、地元住民の暮らしを守っていけるのか。
【アジアの水】急速に都市人口が増え、工業化が進むなか、水不足が成長の足かせになりかねない。
川の上流と下流、水源湖とその水の利用地。さまざまな利害が交錯する。国境をまたぐ紛争の火種にもなりかねない。どのように調整し、解決策を具体化するのか。地域的協力枠組みはつくれるのか。
【共通の課題】分野を超えた課題もある。「環境成長経済」に向けて、誰が何をどのように始めればいいのか。政府・自治体、企業、NGO(非政府組織)、生活者・消費者の協力、連携が生み出す「相乗効果」とは何か。
【G8への提言】気候変動、生物多様性、水問題とも、これまでのサミットで討議されたテーマだ。洞爺湖では何を論じあうべきか。討論者からG8リーダーに向けて、単刀直入に提言してもらう。
◆1日目 温暖化、G8リーダーへの提言
●特別講演
■奥田碩氏 トヨタ自動車取締役相談役 95〜99年、トヨタ自動車社長。日経連、日本経団連の会長などを歴任。社長在任中にハイブリッド車「プリウス」の開発を推進。07年末から温暖化対策の企画立案や経済政策全般についての助言役として内閣特別顧問を委嘱されている。
■マーガレット・ベケット氏 前英国外相 下院議員。94年、スミス元労働党首の死去後、党首代行を務める。97年に誕生したブレア政権下で貿易産業相に就任。05年にモントリオールで開かれた気候変動枠組み条約第11回締約国会議(COP11)の欧州連合(EU)交渉責任者を務めた。
●基調講演
■コニー・ヘデゴー氏 デンマーク気候エネルギー相 84年から国会議員(保守党)を務め、90年からベアリングスチズネ紙記者、テレビのニュースキャスターとして活躍。04年に政界に復帰し、環境相に就任。09年にコペンハーゲンで開かれる国連環境サミットの準備責任者を務める。
●パネリスト
■モハン・ムナシンハ氏 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)副議長 スリランカ生まれ。ケンブリッジ大、マサチューセッツ工科大などを経て、スリランカのエネルギー担当上級顧問、世銀上級顧問などを歴任。現在、コロンボでムナシンハ開発研究所も主宰している。
■ジェームズ・スタインバーグ氏 米テキサス大学公共政策大学院長 ブルッキングズ研究所副所長、国務省情報研究局副次官補などを歴任。クリントン政権では国家安全保障担当副補佐官。外交政策や国家安全保障で多数の著書論文がある。ワシントンクオータリー誌の編集委員も務める。
■西田厚聡氏 東芝社長 三重県出身。75年、東京芝浦電気に入社。85年に欧州でノートPC事業の立ち上げに携わる。05年から現職。半導体事業への投資や、原子力大手のウェスチングハウス社の買収を断行。地球温暖化防止の取り組みとして「ファクターT」を推進している。
■温波氏 NGOパシフィックエンバイロンメント中国プログラムリーダー 学生による環境ネットワーク「中国・緑の学生フォーラム」の設立者。96〜98年には中国環境ニュース記者。00年にグリーンピース北京事務所を開設。中国グローバルグリーングランツファンドの顧問も務める。
◆2日目 エコ・フロントランナーの挑戦
<テーマ1 低炭素社会への挑戦>
パネリスト
■カール・ガルディーノ氏 米シリコンバレー・リーダーシップグループCEO シリコンバレーの公益的な業界団体で「クリーンでグリーンな代替エネルギー計画」を策定。カリフォルニア州のCO2排出削減目標を推進する。
■モーゼス・ツォン氏 香港・アジアパートナーズ会長 ゴールドマン・サックス・グループの元ジェネラルパートナー。米シカゴ大学の元特別研究員。香港大学・香港経済研究センター理事や、香港・富邦銀行の非常勤役員も兼務。
■河内哲氏 住友化学副社長 66年、住友化学入社。石油化学の基幹部門の千葉工場長などを歴任。国際化学工業協会協議会・エネルギー気候変動ワーキンググループ議長、日本経団連の環境安全委員会環境リスク対策部会長も務める。
■末吉竹二郎氏 国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEPFI)特別顧問 67年、三菱銀行入行。96年、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取。03年に東京で開かれたUNEPFI国際会議を招致した。
司会
■浜中裕徳氏 地球環境戦略研究機関理事長 慶応大学環境情報学部教授。環境省の地球環境政策を担当し、京都議定書に関する政府間交渉や国際的な環境合意実施のための政策立案などに携わる。同省地球環境審議官も務めた。
●特別講演
■岡田克也氏 民主党副代表 衆議院議員。三重県出身。76年、通産省(現・経済産業省)入省。90年に衆議院議員初当選。04〜05年に民主党代表。党の政治改革推進本部長、地球温暖化対策本部長を兼ねる。
■エリク・ラスムセン氏 コペンハーゲン気候評議会代表 デンマークで高級誌を発行するマンデーモーニング社CEO兼編集長。同社は国際シンクタンクとして同国の国際競争力向上や「文明共存」などのプロジェクトも手がける。
<テーマ2 生物多様性の未来>
パネリスト
■セバスチャン・ウィンクラー氏 国際NGO・カウントダウン2010事務局長 国連環境計画(UNEP)を経て97年から国際自然保護連合(IUCN)で活動。欧州政策担当上級顧問として生物多様性条約事務局へ助言も行う。
■エゼキエル・デンベ氏 タンザニア国立公園群・企画開発局長 80年から同国国立公園に勤務。密猟監視、観光事業、コミュニティー保全などを担当。エチオピア、コンゴ、ジンバブエの環境保全計画にもかかわる。
■岡島徳岳氏 名古屋市東山植物園参与 名古屋市役所を経て東山動物園主査。コアラ飼料のユーカリ栽培を担当。同市ランの館初代館長、同市東山植物園園長を歴任。湿地環境に依存する東海地方の固有植物の保全などを進めた。
■庄司昭夫氏 アレフ社長 76年、レストランチェーン・カウベルカンパニー(現アレフ)設立。食の安全への取り組みなどで農水大臣賞など受賞多数。環境技術の自社開発や省資源対策を実践。中国・雲南大学の鳥類保護活動の支援なども行う。
司会
■鷲谷いづみ氏 東京大学教授(理学博士) 筑波大学講師、助教授を経て00年から現職。専門は生物多様性保全および生態系修復のための生態学的研究など。日本学術会議会員、中央環境審議会委員も務める。
<テーマ3 アジアの水問題>
パネリスト
■馬軍氏 中国・公衆と環境研究センター代表 90年代にサウスチャイナ・モーニングポスト紙に環境に関する記事や論文を多数発表。02〜05年に米エール大フェロー。中国の水汚染情報にかかわる初の公開データベースを開発した。
■ミングサン・カオサアット氏 タイ・チェンマイ大学教授 国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)を経てタイ開発研究所副所長。デンマーク国際開発事業団、東南アジア経済環境プログラム諮問委員などを歴任。
■トゥサール・シャー氏 スリランカ・国際水管理研究所(IWMI)上級顧問 インド・農村管理研究所元所長。南アジア、中国北部における水管理問題について研究。サハラ以南のアフリカとの比較分析も手がける。
■嘉田由紀子氏 滋賀県知事 農学博士。81年、滋賀県庁に入庁。琵琶湖研究所研究員、琵琶湖博物館総括学芸員を経て、京都精華大学教授。06年、滋賀県知事就任。次世代育成型社会の実現や地域の魅力の再発見などに取り組む。
司会
■渡辺斉氏 名古屋学院大学准教授 朝日新聞・社会部記者、編集委員などを経て論説委員。世界と日本の水・環境問題を継続的に取材。05年から現職。専門は水問題とジャーナリズム論。著書に「水の警鐘」(水曜社)など。
◆総括報告
■小島敏郎氏 環境省地球環境審議官 73年、環境庁入庁。国連アジア太平洋経済社会委員会、長官官房総務課広報室長、企画調整課長などを経て、01年に環境大臣官房審議官。英王立国際問題研究所派遣。05年から現職。
*
コーディネーターは朝日新聞主筆・船橋洋一
<京都議定書とポスト京都> 97年に採択、05年2月に発効した。第1約束期間(08〜12年)に、国別に温室効果ガスの削減目標を定め、国同士で排出枠が取引できる「京都メカニズム」を導入。ポスト京都は、第1約束期間が終わる13年以降の対策やルールづくりを目指す。最大排出国の米国や新興経済国を含めて実効性の上がる仕組みを作れるかが焦点。
<生物多様性条約> 92年の「地球サミット」で日本を含む各国が署名し、93年に発効した。生物多様性の保全と持続可能な利用を目指す。締約国には国家戦略の作成が求められ、日本は95年に策定。現在、生物多様性基本法案の成立へ向けた動きが広がっており、10年に開かれる第10回条約締約国会議の名古屋開催を目指している。
◆このシンポではカーボンオフセットを実施します。パネリストや聴講者の交通機関利用、会場の電力消費などで排出される温室効果ガスのうち削減しきれないものについて、中間法人「日本カーボンオフセット」に委託しました。
◆一般の聴講は、13日のみ。シンポジウム全体の詳報は、紙面とウェブに掲載します。