東海地方固有の植物を保存している東山植物園の湿地園=名古屋市
◇パネリスト
セバスチャン・ウィンクラー氏
国際NGO「カウントダウン2010」事務局長 97年から国際自然保護連合(IUCN)でも活動。
エゼキエル・デンベ氏
タンザニア国立公園群・企画開発局長 エチオピア、コンゴ、ジンバブエの環境保全計画にもかかわる。
岡島徳岳(おかじま・とくたけ)氏
前日本植物園協会会長 名古屋市東山植物園園長を務め、現在、同参与。植物保全に取り組んできた。
庄司昭夫(しょうじ・あきお)氏
アレフ社長 食の安全に取り組み、農水大臣賞など受賞。環境技術の自社開発や省資源対策も実践。
◇司会者
鷲谷(わしたに)いづみ氏
東京大学教授(理学博士) 日本学術会議会員、中央環境審議会委員も務める。
◇パネル討論
鷲谷 (生物多様性をいかに守るかは)もっとも重要な問題の一つだが、日本ではまだ認識が低い。自然の恵み、心身豊かで健やかに暮らすための源になる。
ウィンクラー (名古屋市で)生物多様性条約締約国会議が10年に開かれる。主要な争点は(1)損失のスピードを落とすこと(2)持続的な利用を進める(3)伝統的な知識を守る(4)公平公正な利益の配分――などだ。この目標は具体的ではない。本当に達成するには具体的でなければならない。生物多様性を含んだ新しい京都議定書のような枠組みが必要だ。
デンベ タンザニアでは国立公園だけでも大きな収入を上げている。観光は産業の大きな柱で、経済成長を支えている。生物多様性を保護することは「もうかること」でもある。コミュニティー発展の支えにもなる。国立公園で事業を営めば、法人税が政府に入る。
ただ、アフリカの多くの国では保全、保護に配慮していない。森林伐採などが行われ、財源としか考えていない。人口が増え、野生動物の移動ルートも農地で分断される。アフリカが発展するために必要な生物多様性も失われている。
岡島 生物多様性とは「あなたがいなければ、私は生きられない」こと。動物、植物、バクテリア、カビ――あらゆる生物が大きなネットワークで世界を作っている。
地球上で30万種と言われている植物種のうち、3分の1が絶滅危惧(きぐ)植物だ。すべての種に大事な役割があり、薬用資源としての種の可能性は特に貴重。例えばケシは、モルヒネの原料になる。
人間の生活に貢献する可能性があるのに、十分に調査されないままなくなるのは大きな問題。植物園自然保護国際機構(BGCI)で、植物園内で絶滅危惧(きぐ)種の50%を保全することが、10年までの目標になっている。
庄司 生物多様性の保全に目を向けたきっかけは、ニュージーランドで狂牛病対策をしている担当者が生物多様性の専門家だと知ったこと。食の安全が生物多様性と関係していることに関心を持った。
冬でも水をはる「冬水たんぼ」は、バクテリアが増え、イトミミズが増え、これらが出す汚物が窒素肥料になる。バクテリアは昆虫のえさになる。それで、冬水たんぼを会社でも始めた。また、トマト受粉のための外来種のセイヨウオオマルハナバチの捕獲を市民も交えてしている。将来(の企業活動)は環境抜きにできない。企業のトップの責任は、将来のための決定を今することだ。
会場からの質問 個別の企業や市民がわかりやすい取り組みには、どのような例があるのか。
ウィンクラー 外来種の問題に対応するため、英国では放送局のBBCが、市民に対して庭で植える植物は何がいいのか、といったことを伝えている。
会場 タンザニアでは、地方政府や地域社会での日常的な取り組みにどのようなものがあるのか。
デンベ 保護区で行われていることをもっと広げる必要がある。パークレンジャーとか野生生物をどう保護するかだけではなく、人の育成を心がける必要がある。国立公園を守ることはいいが、近隣が貧しいままでは困る。地方の自治体と地域社会を巻き込んで国立公園を一緒に守り、恩恵も分かち合う必要がある。
会場 日本のNGOに期待することは何か。
ウィンクラー 5月に独ボンで開かれた生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)には7千人ほどの参加者がいて、半分くらいがNGOや産業界の人だった。政府も市民社会組織と対話を持とうとしている。しかし、NGOだけでもだめで、政府、産業界と対話を持たないといけない。
デンベ 政府は、社会を説得する能力がなくなってきている。政府と地域社会の間をNGOに取り持ってもらわないといけない。例えば、アフリカではほとんどの国立公園、保護地域から人が移動させられた。保護地域を農地にしたいという地域社会や市民社会に、生物多様性には保護地域が必要だ、と説得するのがNGOの役割だ。
岡島 地元のNGOと連携して、地元の植生をどう保全するかが、植物園の今後の課題。NGOも植物園を上手に利用して、地域における保全活動をお互いの協力で進めていくことが必要だ。